セフィティダ同盟

気付く前から手遅れの

作者:はこ様 匣入-はこいり-



うん、多分、それが最初。
綺麗な人だなぁって思ったんだ。
仲間にも綺麗な奴…って言うか、顔が整ってる奴は多い。いや全員そう。
でもあの人は、なんだかそういうのとは少し違ってて…何て言うんだろう、凄味があるって言うのかな。
…冷たい、感じ。
あと、悲しい感じ。
どんな人なんだろうな。知りたかったけど、クラウドに聞きかけて止めた。
だって、俺が親父のこと聞かれたら嫌だから。
きっと、何で? とか、大丈夫か? って言われるの判るだろ。
だっても大丈夫もない。
戦わなきゃいけないんだから、だからさ。
クラウドが、あの人にどういう気持ちを抱いているかなんて判らないけど、触れちゃいけない気がした。
名前だけ、聞いた。
それから。
「あいつには近寄るな」
ご丁寧に、忠告まで貰ってしまった。
近寄るも何も…そのうち、戦わなきゃいけないことになるんだけどな。
ほら、例えばさ。
俺がうっかりはぐれたりしてさ、都合良く敵方の陣地に迷い込んだりしてさ。
それで、鼻先になっがーい刀を突き付けられたりしたら、もうね。
「何をしている…」
…戦わなきゃなんない、だろ。
「あ…あは…」
取り敢えず笑ってみた。
「……」
無表情でした。
「もう一度聞く。何を、している」
刀先が鼻にくっつく寸前の位置を、ずっと保ってる。こんな長い刀なのに、全然ブレないとか…何者?
「耳が悪いのか」
「あぁ? はい、いや、あの、聞こえてる」
一歩後ろに下がったら、刀は鼻先から離れていった。
「コスモスの戦士だな」
「…まぁ…一応…」
それにしても、でかい人だった。もしかして、親父より身長高い?
「それで?」
「えっ?」
「何故こんなところに一人でいる」
えっと、なんでだったっけ?
確か、クラウドと、フリオニールとセシルと歩いてたんだよ。そんで、クラウドに忠告されて、それから色々考えてて、気が付いたらみんなを見失ってた。
…迷子じゃん、俺。
しかも敵さんの陣地の真っ只中。アホか俺…。
「ま、迷子、とか…」
「成る程。置いていかれたか」
「え、や、違うッス」
置いていかれるわけがないじゃん。きっとみんな俺を探してる。
「ああ…帰んなきゃ」
でもどこへ? どっちの方向へ?
「…おかしな奴だ」
頭上から降り注がれる低い声に反応した時には、背中に手を添えられて出口まで案内された。
アレ…?
なんか優しい人?
思わず、顔を見上げた。
「……」
綺麗だ、なぁ…。
銀色の長い髪に触れたら、凄い触り心地がいいんだろうな。
「この先を真っ直ぐ行け。それと……には、」
髪がサラサラだ…。親父なんていっつもボサボサでだらしなくて、キチンとすれば少しは見られるはずなんだけどな。
「……耳が聞こえているのは判ったが、耳が遠いのか」
「…は? あ、ご、ごめん」
「何を見ていた」
見惚れてました…なんて言えません…。
「……」
溜め息吐かれちゃったよ。
「あの、俺もう平気だから、じゃあ」
「おい…」
なんでだ。
顔が熱いんですけど。
あの人が指を差した方向に向かってめちゃくちゃに走った。
そのうち、みんなに追い付くはずだ。
ああ、でも。
きっと俺、顔が真っ赤だ。
まだ合流出来ないや。
顔が赤いことばかり気にしてて、俺はまたしても迷子になっていることに気付かなかった。
それどころか、あの人が二回目に指差した先は。
「……あ」
…には、イミテーションがいる…。
そう言われてたんだ、俺。
ちゃんと聞いていたのに理解してなかった。
「…やば…っ」
まだ敵の陣地なのに何やってんだ。
イミテーションの群れは俺を見つけて斬り掛かってくる。
次々と繰り出される攻撃を避けつつ、フラタニティを構えようとしたけど反撃の余裕がなかった。
背後の空気が動く。
どっちに避ければいい?
右? 違う、左?
四方に回り込まれて一体一体の殺気が読み切れない。
隙がない、強い。
目だけで動きを追うのも限界だった。
まだ動きがバラバラだから時間差でなんとか避けきれるものの、次の攻撃が一斉だったら恐らく。
「くそ…っ」
突っ込むか。
無理矢理にでも突破口を開かないと、生き延びる余地はない。
無茶で無謀だけど、それしか。
ひゅん、と、剣が鳴る。
確実に急所を狙う剣が俺に集中していた。
衝撃をフラタニティで受けとめる。だけど、その武器を払って体勢を整える前に、幾つもの剣の切っ先が俺の身体に突き刺さるという、その瞬間。
ぐしゃり、と嫌な音がして背中にイミテーションが倒れこんできた。
「え…!?」
「よそ見をするな!」
激しい叱咤に再び身構えた時には遅かった。
ずくん、と腹を貫かれた。
痛いというより、熱い。
「あ…れ…?」
熱くて、それから、ぼんやりと考え事をする余裕なんか生まれて、ああ、刺されたんだって思って。
「…あ、あ…」
口の中いっぱいに、喉からせりあがった鉄の味が広がった。
うわって思って吐き出そうとしたら咳き込んで、血飛沫で顔が汚れた。
こういうときの心臓の音って凄いんだな。耳の側で鼓動を打ってるみたいに聞こえるんだ。
変なの。
膝を付いたのに衝撃を感じない。
目の前がもう真っ暗で、指先がビリビリ痺れていた。
何も見えなくて、何も聞こえない。
身体が不規則に揺れているような気がする。
どうしよう。
俺、死んじゃう。
こんな、とこで。



熱くて、寒くて、痛い。
鼓動の音は相変わらず耳の側でどくどくいってて、まだ生きてるって思った。
けど。
誰かに名前を叫ばれてるのに返事が出来なくて、呼吸をするのもつらくて、歯を食い縛っているから呻き声しか出せなくて。
「く…ぅ…っ」
刺されたところを上から押さえつけられている。
苦しいって、それ。
叫び声は幾つも聞こえてくる。何を言ってるか判らないけど、叫び声というより…怒鳴り声?
「…く、…を…、早く」
「…ィーダ…!」
聞こえてる、聞こえてるから、そんな風に怒鳴るなよ。
圧迫する何かを退かしたくて腕を上げたら手を握りこまれた。
そうじゃ、なくて。
「ち…、が、…くる、し…」
「我慢しろ! 止血しているんだ!」
怒鳴られた瞬間に、暖かい熱に包まれた。それと同時に圧迫からも解放され、パッと目を開けたら俺を覗き込んでくる三人の顔。
「…は…?」
まじまじと見つめられて、ポカンとしてしまった。
「…なに…?」
「何、じゃない!」
俺の上に馬乗りになってるフリオニールに怒鳴られた。両手を血で真っ赤にして、俺を怒鳴った後でへたりこんでしまった。
「気分はどう? ケアルも使えなかったしポーションもなくて、天幕に連れてくるのが遅れたら危ないところだった」
セシルが、濡らした柔らかい布で俺の顔を拭ってくれた。それもやっぱり真っ赤で、ちょっと驚いた。
「…だい、じょうぶ…」
身体を起こそうとしたら、肩を掴まれて押し倒された。
「…起き上がるな」
片手で俺の手を握ったままのクラウド。声が静かな分、少し怖い。
改めて横たわって、さっきは三人の顔で遮られていた天井に目を向けたら、いつもの天幕の中。
「傷は塞がったが出血が酷かった。暫くおとなしくしているんだぞ」
フリオニールに怒られてすぐ頷いた。
「眠った方がいい。貧血でフラフラすると思うし」
セシルは俺の顔の血を綺麗に拭いさると、布を洗いに天幕を出ていった。
フリオニールも両手を洗いにセシルに続き、未だ手を握り締めているクラウドは、手を離さずそのままでいた。
「……」
「……」
俺、どうやって帰ってきたんだろう。
イミテーションに刺される前、加勢にきたのは誰だったんだろう。
「…クラウド…?」
「なんだ」
「クラウドが助けてくれたのか?」
「……」
無言ってことは、違うのかな。
「あんまり、覚えてないんだけど、あの、」
「…喋るな…」
「…ごめん…」
色々と、迷惑を掛けてしまった。
はぐれたこと、気を抜いていたこと、忠告を聞かなかったこと、みんな俺が気を付けていればこの怪我も回避出来たはずだった。
情けない。
俺が何のためにここに存在しているのかも忘れて、あの人の影を追って…しかも、あの人は敵じゃないか。
「……ごめん、なさい…」
血が減ったせいか、体温がやけに低くて、その分クラウドの手が暖かく感じた。
クラウドは無言でブランケットを肩まで引き上げてくれて、汚れるのに、と止めようとした俺を目で制した。
「何も心配することはない。眠れ」
「……うん」
手を握ったまま、片方の手で目を覆われた。
クラウドが作り出した闇の中で、俺はすぐ眠りに落ちた。



「無謀だ。感心しないな」
「あいつは仲間を傷つけた。いずれは俺が決着をつけなければならない相手だ。それが早まっただけというだけだ」
「でも…違うんじゃないかな。だって彼はティーダを連れてきてくれたんだ」
変な夢だなぁなんて思っていたけど、夢じゃなかった。
会話の中に俺の話題が出て、あれからどのくらい経ったんだろうってぼんやり考えた。
そう言えば、飯貰ってないから腹減った。なにか食べるものあるかなと、起き上がろうとしたのに。
「見せ付ける為にあいつがしたことかもしれないだろう!」
クラウドの声に驚いて固まってしまった。
「静かに、ティーダが起きる」
…ああ、寝てないと駄目か…。飯は諦めるしかないみたいだ。
それにしても、三人は何の話をしてるんだろう?
「腹が立つのはわかるよ、クラウド。でも、少し落ち着こう。ティーダは無事だったんだ」
俺が怪我をしたこと、やっぱり迷惑掛けてる。後で改めて謝らないとなんて密かに反省した。
それで、寝たフリを続行したまま三人の話し合いを聞いてた。
「とにかく、一人で行くべきじゃない。いずれ戦うと判っているのなら、逆上したまま挑むのは得策じゃない」
セシルとフリオニールに諫められてクラウドは黙り込んだ。
そもそもクラウドが怒鳴り声をあげるなんて珍しいのに、ここまで…俺が、怒らせたんだ。
でも、やっぱり言わないと。
「クラウド、あの」
起き上がって、背を向けて話し合っていた三人に声を掛けた。
「ティーダ…、起きていたのか」
一番側にいたフリオニールが手を貸してくれたけど、身体を起こした途端サーッと血が下がってくらくらした。
「あの人は、違うんだ」
「何の話だ」
「何のって…、セ、セフィロスは何もしてない。俺、イミテーションの群れに突っ込んで、それで…」
クラウドが、こんな風に怒りを感じたまま戦いに挑むのはフリオニールの言うとおり得策じゃない。
だからもし、あの人が俺を傷つけたのだと誤解しているのならそれを解きたかったし、でも…でも、俺。
クラウドを怒らせたことよりも、あの人が誤解されたままの状況をよく思っていないだけじゃないのか?
敵、なのに。
なんて考えを持っているんだろう。
敵なんだ、あの人は。
でも、見た目のことだけじゃなくて、あの悲しそうな姿、俺はその姿しか知らなくて。
「……それで、俺…」
「ティーダ」
それまで、ずっと俺と視線を合わせていなかったクラウドが俺を見つめた。
「クラ、」
乾いた音が耳に響いて、なに、と思った後に頬がじんわり痛んだ。
「お前は明るくて前向きで、存在そのものが周りを和ませる。だからこそもう一度言う。あいつには近づくな」
でも、って、言えなかった。
「…頼む。俺も、無謀なことはしないから。…頼む、ティーダ」
うん、って、言えなかったから、頷いた。
浅はかで、無鉄砲な行動を咎められるよりも、深く心配されて怒られるよりも、胸が苦しかった。
涙が後から後から溢れて止められないのは、多分、頬が痛いからじゃなくて。
ただ一度だけ名前を呼んだあの人と、あんな風な会話をすることがもう二度とないんだと実感したからなんだ。

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匣入-はこいりのはこ様から頂きましたセフィティ小説です!
無意識にセフィロスに惹かれてしまうティーダ……そしてさり気ない優しさを出すセフィロス!
最後のティーダの気持ちを考えると切なさにきゅんとします……!
はこ様、素敵な小説ありがとうございましたーv

10.06/27

  

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