思いが走る理由
何故逃げるんだ。
一人で歩くのは危険なんだ。先刻だって後に蛇が近付いていたじゃないか。
それで解るだろう?敵は人間だけじゃない。
自然だって此処じゃ敵なんだ。
逃げる理由が解らない。
何が有った?俺は何かミスをしたのか?
先刻の……
何処かへ逃げた蛇。
俺は蛇をエアガンで撃った。
まさか、気付いていなかったのか?
そこにいた蛇に。
俺の武器がエアガンだという事に。
初めて撃ったエアガンの反動で後へ下がった瞬間小石を蹴った。
その小石は飛んでお前の頬を傷付けた。
俺を疑ってるのか?
虫食いの穴を暫く見て走り出したのは、そういう事なのか?
それでもお前を護りたい。
追って追って追って……
スタミナでもお前に勝てるだけの鍛え方はした筈だ。
(追いつける確率は……90%を越えているよ)
そろそろ限界の筈だ。これ以上は精神力だけ。
(その精神力が今は厄介だな)
それでも追いかける。
俺はまだ信じているんだ。お前が俺を信じている事を。
目の前に立って初めて解る事もある。
(それはお前が俺に教えたんだろう?)
俺の中心を確立しているデータは蓮二が教えてくれた。
俺を強くしてくれる人としての確立はお前が教えてくれたんだ。
走る姿に危機感を覚える。これ以上走らせてはいけない。
「海堂!止まれ!これ以上は走るな!」
精神に限界を見出せなくても体には限界がある。限界は超えられないから限界と言う。
体への負荷を無視すれば結果は歴然だ。四肢の負荷は無視できる。
問題は……
「俺が、お前を裏切る事は、無い!」
どんなに鍛えても内臓の限界は超えられない。
走るな。これ以上は俺のデータを遥かに超える。
お前の体の限界値は知っているんだ。
前を行く足が止まった。
声が、届いてくれたのか……
そのまま振り返る途中で足から崩れ落ちていくのを駆け寄り受け止めた。
冷たい体。走っていた後にこの冷たさ。
危険域を超えていた。
俺に何ができる。処置をしようにも何もない。
何故この状況を予測し用意をしておかなかったのか。
何故この状況を予期し足を止めなかったのか。
お前を追わずにいる事でお前が離れていくと解っていたから。
掛けていた眼鏡が薄らと曇る。油膜が張ったように視界が滲む。
お前が見えなくなる。
一つ瞬きをすると視界はクリアになった。
唯抱き寄せたまま、お前の唇が動くのを見ていた。
「信じるから、アンタだけは……」
言葉が消えた後に目を閉じたお前はもう動く事はなかった。
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