データが導く先



一歩一歩確実に近付いている筈だ。
誰よりも知っていたお前だから行動を予測する事はできる。

それでも過去形でしか言えない事実が足を速めさせてはくれない。





此処で目覚めたお前は現状を直に把握する。
そして脱出を考えるだろう。

地図と他のみんなの行動パターンを照し合せ必要なモノを調達に向かう。


俺のバッグに入っていた汚い手書きの地図はコピーした物だった。
恐らく全員のバッグに同じ物が入っていたんだろう。
信用できるかはわからない。それでも手掛かりにはなる。そう考える筈だ。

先ずは人を集めるだろう。
お前が第一に信頼を寄せるのは同校メンバーの筈だ。


(俺と組んでた頃に〝信頼無きチームに勝利は掴めない〟と言っていたな)


彼らは頭も悪くない。恐らくは建物に向かうだろう。
盾と矛と屋根の三点を見過ごすとは思えない。体力の温存は基本的戦術だ。

但し建物も人の集まり難い所を狙う。
地図を見る限りでは島の端に森に囲まれた民家がある。物理的には一番行き難い。
そして地図のど真ん中にある学校。意識的に避ける場所だ。


(ゲームに乗っていなければだけどな)


お前は島の端を目指すだろう。
だが既に呼ばれた名前が二つある。それに因って行動が変わる。


民家を目指し歩いていた足を止め放送に聞き入る。


乗っている者がいる事実と信頼を寄せた者の死はお前の足を止める筈だ。
此処で思考は二つに分かれる。
脱出を目指すのに必要な人材の確保と死を受け入れ難いままにその死の因を探る事。
お前が優先するのは仲間か人材か。


人材の確保を優先するだろう。お前は自分の為には動かない。



残るメンバーは集めた頃だろう。お前の策に動く。

信用できる者は少ない筈だ。各校の部長クラスは面識がある。
誰を選ぶか。恐らく才の高い者。手塚、橘、跡部か。
いや、情の強い者は選ばない。
幸村がいる時点でリーダーも要らない。
いや、多くの人数での脱出を考えているなら必要になる。
それなら先ずは緩衝材だ。
穏やかで人に意見を言える者。誰に対しても同じ態度を取れると思われている者。
此処にいるだろう人間に顔を知られている者。そしてお前と面識がある。
今まで呼ばれた名前の中に青学の音を拾っている筈だ。

データは大石を示している。


大石の動きは予測が立つ。だがお前の中のデータは其れ程多くはないだろう。
人物像から示す行動パターンでの選択でしかない。


いや、拠点を作っている可能性も否定できない。寧ろ確率は其方が高い。
行動の把握とスピード。そして情報の収集を兼ね備えた場所は一つだ。





そして、向かう先に見える尖塔。
此処がお前の拠点だろう?

昏い夜に覆われた島に灯りを与える希望の建物。
それはお前に相応しい。
俺にも灯してくれ。教えてくれ。


データは集まっている。


答えをくれ。
俺の先にある生と死を。






辿り着いた灯台の中に入る為に掛けた手を止めた。
背後に気配がある。
見知った気配が放つ見知らぬ刺視。

何故だ?これは殺気じゃないのか?


首筋がそそけ立つ。手が震える。
信じる事もできず信じない訳にはいかない。状況が混乱を呼ぶ。

有り得ない。突き刺す視線を向けている相手は知らない誰かじゃないのか?
俺に気付いていないからじゃないのか?


全ての期待を裏切る状況。

この気配を間違える筈がない。ずっと追い続けた相手を俺が間違える訳がない。
この見通しの良い場所で俺に気付かない筈がない。

「っ!!……ぁっ……」

意を決し振り向こうとした瞬間に走った痛み。冷たい金属の感触が背中から入る。
柄の重みで抜けていく動きまでがリアルに神経を撫でていく。
手を扉に付け体を支えながら今度こそ振り返る。

血塗れの短刀を下に有った視線が捉えた。
そのまま上へ向けた目が捉えた映像に深い闇を知る。

「……な、何で、お前が……」

矢張り気配に感じた相手は正しかった。
追い続けて勝利をもぎ取る事を夢見た相手。


背中の傷は肺に達しているらしく口からゴボッと血が溢れる。
だが言葉を繋げられないのはその所為だけじゃない。

信じられない。信じたくない。


(そうか。海堂もこれを感じて走っていたんだな)


背を向け走れる物ならこの現実から目を背け逃げている。
それでも頭を過った名前が闇を祓い冷静な観察を促す。

決して逸らす事無く強い視線が俺を見ている。
その手に持ったレギュラージャージは四枚。
一枚は俺が掛けてきたものでもう一枚は海堂が着ていた物。残る二枚は……。
それを持つ手に走る三本の傷跡と目を光らせる物がお前の心情を語る。
決して落ちない雫が辛さを語る。


(お前は、背負うんだな?全てを背負って逢いに行くんだな?)


この先増える四本の傷を思う。それを見た相手の気持ちを思う。
何て、痛いんだろう。



「……さ…先に…………逢いに行く、な……」

何とか作った笑顔にお前が少しでも安らげれば良い。
お前が逢える事を祈ってる。助かる事を祈る相手が他にも居はしたけれど。


目が霞む。瞬きをしてもクリアにならない視界が最期を知らせる。


(どうしても逢いたい人がいたんだけど、もう無理みたいだな)


でも、答えはお前がくれた。
理性も倫理もいらない。この思いの前に生も死もない。
俺は死ぬんじゃない。理屈じゃないんだ。


(アイツに逢いに行くだけだ)



結局逢えなかった相手に小さくゴメンと呟いて体の力を抜いた。




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