ゆし


 聖夜。天狗は、ゆっくり過ごせる屋内に戻っていた。
 夕食は、晴明の家で摂った。聖夜の祝宴。泰継と並び参加していた。今は、帰っている。袋を持参し、一室の
戸に踏み込む。
「泰継。戸の傍にいる。少し会えるか?」
 彼と過ごせれば嬉しい。声を、響かせた。
「天狗。嬉しい。準備を済ませる」
 中にいる彼は、素早く応じてくれた。小さな音が聞こえる。
 静寂は、ほどなくして訪れた。戸に接してから、歩んだ。
 綺麗な一室に寄る。泰継は、すぐ見える位置にいた。
「失礼する。綺麗な包みが、見えるな」
 少し冷えていると思われる手が、美しい包みを持っている。彼は、そっと頷いた。
「天狗に、贈る。聖夜を記念する」
 小さな声。だが、胸は満たされる。包みが、傍に移される。
 片手を伸ばし包みに添えてから、話した。
「ありがとう。儂も、寄せるぞ」
 揺れていた袋を、泰継に見せる。
 聖夜を祝う品。無論、天狗も彼に準備していた。
「嬉しい。ありがとう」
「品を見て良いか?泰継も包みを取れ」
 微笑しそっと接してくれた彼に、知らせる。許されるならば、すぐに中を見せて欲しい。泰継にも、品を知って
欲しい。
「分かった。天狗も見てくれ」
 許可を得た。天狗は、そっと無駄のない包装を解く。
 少し重い、判子と似ている形の製品。知っている。
「タンパーか。上品なものをありがとう」
 使うと良質なコーヒーに会える。挽いた豆を丁度良い強さで詰められるもの。幸せが訪れる。大切にしてみせ
る。
 微笑を崩さずに頷き、彼もそっと包みを開く。
 箱から、木製の丸いものがふたつ現れる。
 しばらく、細い指を添えた後。
「触れられるものだな。木も、美しい。ありがとう」
 天狗は一礼を見た。安堵する。
 卵を彷彿とさせる木の玩具。色や手触りも良い。また、均衡を保てば起伏のない場所に設置出来る。ひとつが
易く、もう一方は技術が要るらしい。
 触ると癒され、位置を探りながら遊ぶことで集中力も養える。泰継の優秀さは知っているが、休みつつ頭の回
転にも役立てば良いと思い選んだ。
 彼の手に包まれた贈りもの。眺める。
「卵を移すか?」
 天狗が訊く。泰継は頷く。近くの机に箱と木の作品が揃えられる。易しいほうに、綺麗な指が触れる。
 卵を調整する、真っ直ぐな瞳。天狗は少し寄り、横顔に視線を移す。
「転ばない」
 ほどなくして、彼は口を開いた。
 球状の玩具は、揺らぐことなく机に存在している。天狗は呼吸し、囁いた。
「泰継の美しさが、良く見える」
 卵に注がれた、息を呑むほどに美しい眼差し。胸が、ざわめく。近付きたい。
 目と耳の間に、美しい肌が存在する。
 天狗は彼の言葉が聞こえる前に、そっと、唇を寄せた。
 泰継は目を見開く。だが拒まずに、瞼は閉じてくれた。
 唇を添えているので、声が出ない。
 天狗は小さな一礼で、感謝した。


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