夢を守る 「……天狗」 単の帯を結んだ天狗は、その声に驚き、すぐ横の褥に目をやった。 「――泰継。寝ていなかったのか?」 つい先ほどまで、天狗はこの庵で彼と体温を分かち合っていた。その後、泰継は天狗よりも早く衣を纏い褥に 入ったため、もう眠っていると思っていたのだ。 「……ああ」 「大丈夫か?早く休め」 瞼は閉じかけているし、声も小さい。やはり、泰継の眠気は強いようだ。彼は務めがあるのだから、そろそろ 休んだほうが良いだろう。 「――お前は……眠らないのか?」 泰継は、天狗の瞳を見ながら問いかけた。 「いや、もう寝るが」 夜は既にかなり深まっている。ちょうど、天狗も褥に入りたいと思っていたところだ。 「――では、私も眠る」 「そうか」 その答えに安堵しながら、天狗はゆっくりと泰継の隣に横臥した。彼が身体をこちらに向けたことを確認して から、腕の中にそっと抱きしめる。 「……夢を見るときは、お前の傍にいたい」 背中に置いた掌に少し力を込めたとき、泰継は呟いた。 「……泰継?」 「――お前の腕に包まれると、いつも心が満たされるのだ」 これほど密着していてようやく耳に届くほどの、小さな声だった。しかし、彼の想いはしっかり伝わって来る。 泰継が眠っていなかったのは、自分を待っていたからなのだろう。 「――偶然だな。儂もお前を腕に抱いているときは、とても幸せだ」 背中のものとは逆の手で、泰継の髪をなでる。天狗も、彼と同じだった。互いの温もりを通わせながら眠るひ とときは、何ものにも代え難いのだ。 彼の安らかな眠りを自分が守れているのだとしたら、本当に嬉しい。 「――そうか……」 「――お休み、泰継」 泰継の耳元に口を近付け、頭に置いた掌を再び動かす。もう少し語り合っていたいような気もするが、彼の夢 を妨げたくはない。 「……ああ。天狗、お休み」 腕の中で頷いた後、泰継はすぐに、規則正しく寝息を立て始めた。 |
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