よせ


「泰明。夜も北山は素敵だろう?」
 隣にいる者が、私に訊いた。
 目を見つめ、頷く。
「……天狗。ありがとう。闇夜の葉まで、美しい」
 風景が、安らぎをくれた。静かに、呼吸する。
 天狗は夜を過ごそうと北山に招き、より穏やかな眠りに備え庵の周囲を歩こうと提案してくれた。
 闇にも映える美しい葉。天狗が、齎してくれた。息吹を、分けてくれないだろうか。穢れなき自然に接する
と、私の力も強まる。
 ゆっくりと、指を寄せたとき。
「泰明」
 天狗に、止められた。手を、掴まれている。
「理由もなく、手を取るな」
 驚きながら俯き、注意する。一瞬、胸が壊れそうだと思ったことは、呟かない。静かに、意図を推理する。
 そして。
「――すまん。指は、切れなかったらしいな」
 安堵したような言葉が、聞こえた。俯くことを、やめる。私の指を微笑み見つめる天狗が、傍にいた。
 葉で指を切ったのではないかと、思ったらしい。
 無用な世話、だが。
「怪我は、ない。ありがとう」
 優しい手は、嬉しさをくれる。負傷はないが、手の位置を移さずにいてくれないだろうか。愛しさに、そっ
と、瞼で目を塞いだとき。
「だが、治療する」
「必要ない……」
 言葉が聞こえ、天狗を見ながら否定した。無駄に私の指を診ることはない。傷がないことは、天狗も知ってい
るだろうと、思ったが。
「遠慮するな」
 天狗は笑みを崩さず、私の手を強く握った。そして、一歩身体を寄せる。
 身じろぐ。だが、拒みたくはない。幸せ、だから。
「……莫迦」
 企みを悟りながら、俯き、呟いたとき。
 指に、唇が寄せられ、癒された。


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