休むのか


 聖夜が終わり、次の日になる頃。天狗と晴明は、手提げバッグを持ちリビングへ移った。
「――始めるか」
 天狗は、小さく提案する。傍にいた彼は、頷いてくれた。
 聖夜。天狗は、宴に招かれた。素晴らしいときを過ごせたと思うが、宴の日より早く、晴明と決めていたの
だ。
 宴が終わってから、ふたりで改めて祝おうと。
 今夜は、彼の家に泊めて貰う。泰継もいるが、既に休んでいるだろう。泰明も、同じはずだ。
 ふたりで祝うのには、適した頃だと思う。
「ゆっくり過ごそう。ところで、肴を訊いても構わないか?」
 近くの椅子に腰かけたとき、晴明に訊かれた。
 酒宴のため、肴は自分が選ぶことになっていたのだ。
 天狗は頷き、バッグを彼に見せる。
「ナッツにした。量もあるぞ」
 卓の上で、しまわれていた缶を持つ。飽きずに手を伸ばせる品を選んだ。
「ありがとう。素敵なときになりそうだ」
 晴明は、隣の椅子に腰かける。
 そして彼は唇を綻ばせ、しまわれていた瓶を見せてくれた。
 いつかふたりで注ぐために、保存しておいた酒だと聞いた。晴明が選んでくれた瓶ならば、不安もない。
 天狗は、持参の缶切りを手に取った。
 
 そして。
「――ありがとう、晴明」
 グラスを卓に戻し、天狗は呟いた。
「――ありがとう、天狗」
「結構な、席だったな」
 穏やかに笑う彼を、見つめる。晴明の隣だったからこそ、酒やナッツもより止まらなかった。
「……では、少し酔いを醒まそう」
 刹那、彼は椅子を引いた。
「晴明?」
 不思議に思い、呼びかけたとき。
「……茶漬けがある。作らせてくれないか?」
 バッグの隅にあった箱を、彼は手に取った。
 酒宴が終わってからの準備も、済ませていたのか。
 驚いたが、断る理由がない。
「――お手並み拝見、させて貰おう」
 きっと、酒とは違う魅力があるだろう。彼の手製なのだから。
 自分を労ってくれることが、嬉しい。
 天狗は椅子を使うことをやめた。
 愛しさを込めた腕を知ってから、作って欲しい。ゆっくりと、晴明を抱きしめた。

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