休みを 私は、深く呼吸をした。 「――天狗」 声をかけながら、後ろを向く。楽な姿勢で座っている彼と目が合った。こちらを、見つめていたらしい。 「泰継、夕餉にするか?」 「頼んでも、良いだろうか」 視線を逸らさず尋ねる天狗に、返答した。 帰宅してから夕餉を摂るまでの間、私はいつも文机に向かう。短時間にも、出来ることはある。書から知識を 得ること、都の気を探ること。だが、都の気は落ち着き始めているようだ。すぐに対策が必要な状態ではない。 休憩することに、問題はないだろう。 「分かった。少しだけ待っていろ」 彼は、すぐに立ち上がった。後は仕上げと、配膳を待つだけらしい。天狗は夕餉の支度を頼むと、いつも手早 くこなしてくれる。 準備をするために歩き出そうとしている彼に、私は、呼びかけた。 「……天狗。ありがとう」 彼は足を止め、こちらに視線を向けた。 「――改まって、どうした?」 目を見開き、尋ねる天狗。 私は、息を吐いてから、返答した。 「お前が……優しい目で私を見ていることが、文机の前にいても分かるのだ」 文机の前に座していると、天狗の視線を感じることがある。そのようなとき、私は安堵する。疲労を、和らげ てくれるのだ。 「――見つめられて、気が散ったりはしないか?」 私のすぐ前に座り、彼は少し不安げにこちらを見る。だが、私は首を横に振った。 「……天狗は、いつも私に休息が必要なとき、優しく見つめてくれる。だから、安堵する」 彼は、ずっと私の背中を見つめているわけではない。少し休もうかと思ったときに、その視線で安らぎをくれ るのだ。そして、すぐに夕餉を用意してくれる。 理解されているようで――嬉しい。 「――良かった。夕餉の後も、少し休憩しろ」 頷こうと、思ったとき。 天狗はその唇を、私のそれに重ねた。 |
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