分け与えてくれる

「……お師匠」
 美しい手が、伸びて来たとき。私は呟いて、そっと目を閉じた。
 静かな闇が広がる刻。師の庵に、私はいた。これから朝まで、お師匠の傍にいることが出来る。目の前にいる
人が、私を求めてくれたから。
 既に、鼓動が速い。落ち着けるため深く息をしてから、私は目を開けた。
 そのとき。お師匠の手が、ゆっくりと首飾りを外した。いつも私に美しい気を分け与えてくれるそれを、今、師
が持っている。一瞬、私は息を呑んだ。
「――泰明、不安、か?」
 首飾りの代わりを務めるかのように、お師匠がそっと私の胸をなでた。その目はこちらへと向けられている。
私を気遣ってくださっているのだろう。
 だが。
「……いえ。お師匠が、傍にいてくださいますから」
 私は、首を横に振った。
 今、胸元に首飾りはない。だが、お師匠の手がある。
 鼓動は、今も速い。それはきっと師にも伝わっている。だが、その手から伝わって来る温もりに、私は安堵
しているのだ。
 お師匠の手は、いつも優しく動く。私は、それを知っている。だから――緊張はしているが、不安はない。
 大切な人が、すぐ傍にいてくださるのだ。本当に、幸せだと、思う。
「……そうか」
 お師匠は一瞬目を見開いた後、柔らかく笑った。
 手だけではなく――この笑顔も、愛しい。この人が傍にいてくれるときは、いつも頬が熱くなる。
 そう思ったとき、私の胸に置かれていた手が、下へ向かって動き始めた。
 更に速くなった鼓動を感じた、直後。
 私が纏う衣の帯が、その手によって引かれた。


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