打ち明けて

 天狗は、単を纏った。外からも、まだ鳥たちの声は聞こえて来ない。これなら泰継も、しばらくは眠ることが出
来るだろう。
「……天狗」
 もう一度褥に横たわろうか、と思ったとき、自分よりも早く着替えを済ませた彼に声をかけられた。
「どうした?」
 近付いてから目を合わせ、問いかける。
 泰継は俯き、言った。
「――すまない」
「……何がだ?」
 突然の謝罪に思い当たることがなく、尋ねる。彼は視線をこちらには向けず、返答した。
「私は……途中からお前に、上手く応えられなくなった」
 とても小さな声。先ほどまで泰継とは寄り添い、求め合っていた。そのとき上手く応じられなかった、と、彼は
言っているのだろう。
 だが。
「――泰継、そんなことはないぞ。お前といられて、嬉しかった」
 彼の傍にいるだけで、この胸は満たされる。そして何より、泰継は愛らしくこちらに手を伸ばしてくれてい
た。謝罪する必要など、全くない。
「だが……」
 それでもまだ、彼はこちらを見てはくれなかった。
 その胸にある靄を、自分が晴らすことは出来ないだろうか。
 そう思い、天狗は泰継の頭にそっと手を載せた。
「……では泰継。ひとつ、儂の秘密を打ち明けよう」
「――秘密?」
 目を見開き、彼はこちらを向く。
 天狗は一度深く呼吸をしてから、ゆっくりと唇を動かした。
「……お前に近付くとき、必死になり過ぎて、儂も上手く動けないことがある」
 泰継は知らないかもしれないが、その温もりに手を伸ばすとき、情けないほどに必死なのだ。思考が追い付か
ないことすらある。
 瞬きもせず、彼はこちらを見ている。
 そしてほどなくして、言った。
「――本当か?」
 このようなときに、嘘を吐くはずがない。天狗は彼の頭に載せた掌をそっと動かしながら、頷いた。
「もちろんだ。儂もお前も変わらない。だから、気にするな」
 泰継は、今も目を見開いている。
 だが短い沈黙の後、彼は返答してくれた。
「――分かった」
 その唇は、綻んでいる。どうやら、胸の靄が晴れたようだ。
「……それは良かった」
 愛しさが溢れ出し、天狗はその瞳を覗き込む。
 泰継は頷き、瞼を閉じた。
 もう一度、深く呼吸をする。
 そして、彼と唇を重ねた。


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