強い気持ち 「――天狗、どうした?」 元日、夜。私は、隣の褥に座している天狗に問いかけた。 年の変わり目、陰陽師は宮中にて様々な儀式に携わる。私がこの庵に帰ったのは夕刻のことだ。現在は就寝 の支度を済ませ、天狗と会話しているのだが――彼の様子が、いつもと違うような気がするのだ。著しく異なっ てはいないのだが、どこか落ち着いていないように思える。 「何がだ?泰継」 「――少し、様子が変だ。何かあったのか?」 近付いて、理由を尋ねる。私がいない間に、何か大変なことがあったのだろうか。 「――気付かれたか。みっともないな……」 天狗は一瞬驚いたような表情を浮かべた後、寂しそうな、苦しそうな声で呟いた。 「本当に、どうした?体調が悪いのか?」 「いや、そうではない」 「では……悩みでもあるのか?」 気の乱れはないが、何かに苦しんでいるのだろうか。そうだとしたら、天狗の辛苦を和らげたい。 「――そうだな。悩んではいないが、考えていることならある」 天狗は頷くと、僅かに下を向いた。 「何だ?私に、話して欲しい」 私には、その理由を聞くことしか出来ないかもしれない。だが、彼の心を知りたいのだ。 天狗は小さく息を吐くと、私と視線を合わせた。 「――今年は、まだお前と同じ褥に入っていない、と考えていた」 天狗は、自らを嘲るかのように笑っていた。 「――天狗……」 「――変なことを言ってすまない。お前は疲れているだろう。ゆっくり休め」 天狗は悲しそうな笑顔のまま、私から瞳を逸らす。 しかし私は、彼のことをみっともないとも変だとも思わない。何故なら。 「――私は、構わない」 小声で想いを伝える。だが、天狗の耳には届かなかったようだ。 「泰継?」 天狗の視線が、戻って来る。鼓動の速さに負けぬよう努めながら、私は先ほどよりも幾分声を大きくした。 「――お前が、そうしたいと思っているのなら……私は、構わない」 「――だが、疲れているだろう」 片方の手で、天狗は私の頬を包む。しかし。 「……疲労より、お前と二人で過ごしたいという気持ちのほうが強いのだ」 万全な状態でないということは否定しない。だが、私も彼と同じことを願っているのだ。宮中にいる間は、逢う ことすら叶わなかったのだから。 「――ありがとう。なるべく、負担はかけぬようにする」 天狗は目を細め、頬に置いた掌を緩やかに動かした。 「……ああ」 私が返事をしたとき、もう一方の手が衣の襟元に置かれた。 |
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