つと


 天狗は、褥の傍らに手を伸ばした。
「――泰継」
 隣に横たわっている身体に、ゆっくりと腕を伸ばす。
 休眠は少し遅く取ることに決め、泰継の近くに、ずっと身体を寄せていたのだ。明け方に変わりそうではある
が、今から、ふたりで眠ろうと思う。
 手を、彼の腰に置いたとき。
「天狗。胸、が見える」
 泰継が、呟いた。
 胸に、急ぎ視線を移す。指摘されたように、単は少し崩れ、胸が見えていた。単を身体に戻したときは、顧み
る余裕を失っていたらしい。
「悪い。身体を守らんとな」
 横たわることをやめるのは、少し面倒だ。眠ろうとしていたので、身体も休みたいと訴えてはいる。だが、泰
継にだらしない姿を見せたくない。身だしなみに注意し、単で身体を守ろう。
 天狗が、褥を使うことを一旦やめようとしたとき。
「――すまない。ふたりで眠るときに、天狗ひとりが無理に作業することはない」
 泰継に、見つめられた。とても、綺麗な瞳だ。頬が少し赤いところも、愛らしい。思わず、見とれた。僅かな
ときではあっても、ひとりの作業は哀しいかもしれない。彼は、寂しさを防いでくれた。
 隣に、いさせてくれるのだろうか。単を戻さず、彼の傍にいることを許してくれるのだろうか。
「――傍で、眠らせてくれるか?」
 ゆっくりと、天狗は尋ねる。泰継は、笑顔で頷いてくれた。
 優しい許可をくれた笑顔。嬉しかった。
 天狗は、単を戻そうとしていた手を彼の腰に移す。幸せなまま、眠りたい。
 そして、ゆっくり瞳を瞼で塞いだ。


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