繋がったままで

「――お師匠」
 褥の中で目を覚ました泰明は、ごく小さな声で隣で眠る人を呼んだ。だが、起きる気配はない。
 東の空は既に白くなっているだろう。そろそろ単から衣に着替えたほうが良い時刻だ。
 しかし、と、泰明は晴明の顔を見つめた。
 瞳を瞼の裏に隠し、幸せそうに寝息を立てている師匠。その手は、しっかりと泰明の掌と繋がっているのだ。全
ての指が絡み合っているため、容易には振り解けない。激しく動かせば手を自由にすることは出来るかもしれな
いが、それでは晴明を起こしてしまうだろう。
 それに――泰明は、掌に愛しい温度を感じていたいと思っていた。
 昨夜、身体を重ねた後、晴明は強く手を握ってくれたのだ。その状態は、今も変わっていない。
 不可能だとは分かっているが、このまま晴明の隣にいたい、という想いがあった。
 頬が熱くなり、鼓動は速くなる。
 晴明の傍にいたい。
 改めてそう願った瞬間、思わず晴明と繋がっている指に力を入れてしまった。
 すぐに気付き、力を抜く。だが。
「――泰明」
 ほぼ同時に、開かれた双眸が泰明に向けられた。
「――お師匠……」
「……お早う」
 晴明は柔らかく顔を綻ばせている。どうやら、完全に夢から覚めているようだ。
「……お早うございます。起こしてしまい、申し訳ございません」
 手に力を込めて眠りを終わらせてしまったことを、泰明は謝罪する。
「何故謝る?お前が強く手を握ってくれて、私はとても嬉しいのだ」
 しかし、晴明の穏やかな表情は消えなかった。その声音も、温かく響く。
「……ありがとうございます」
「――ああ。では、朝餉にしよう」
 晴明は目を細め、身を起こした。泰明もそれに続く。しかし、掌はまだ繋がったままだ。しばらくはこのままでい
ても良い、ということなのだろう。
 ふと手に感じる力が強くなり、泰明は応じようと指に少しだけ強く指を絡めた。


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