次の機会には

「泰明、入っても良いだろうか」
 午前零時。大きな包みを抱え、晴明は泰明の部屋のドアを叩いた。
「はい。お師匠、何かあったのですか?」
 了承を得て、中に入る。椅子に座り、櫛で長い髪を梳かしていたパジャマ姿の泰明は、立ち上がって晴明に近
付いた。
 彼の言う通り、このような時刻にここへ来たのには理由がある。
「ああ……祝いに来たのだ」
「お師匠?」
 泰明は少し首を傾けている。彼のために、晴明は言葉を付け足した。
「――お前の誕生日を、祝いに来たのだ」
「――お師匠」
 泰明は、美しい目を見開いた。
 九月十四日。今日は、彼がこの世に生まれて来てくれた日なのだ。
「誕生日おめでとう、泰明」
「――ありがとうございます、お師匠」
 瞳を見つめて言うと、泰明は幸せそうな笑顔を浮かべた。突然部屋に押しかけてしまったが、祝いの言葉を喜
んでくれたようだ。
「大したものではないが、プレゼントだ。中を確かめてくれるか?」
 包みを両手で持ち上げると、泰明は頷いて受け取ってくれた。口のリボンを解き、ラッピング用の大きな巾着袋
を開ける。
「これは……枕ですね」
 包装されていたものを目にした泰明は、感触を確かめるように表面に手を置いた。
「ああ……」
 晴明は、彼への贈りものに低反発の枕を選んだ。常に努力を怠らない泰明が、少しでも穏やかな眠りに就くこ
とが出来れば良いと思ったのだ。
「――ありがとうございます。心地良く眠れそうです」
 袋と一緒に枕をしっかりと胸に抱き、泰明は再び微笑んだ。
「――そうか、ならば良かった。気が向いたら是非使ってくれ」
 晴明は安堵の息を吐いた。彼の好みから外れてはいなかったようだ。この枕が、泰明の役に立ってくれれば良
い。
「はい」
 答える彼の声は、とても柔らかだ。表情も崩れていない。
 そんな泰明を間近で見ている内に、晴明の心にある想いが溢れ出して来た。
「――残念だな」
「……どうしました?」
 思わず呟くと、泰明は不思議そうに尋ねた。聞こえぬように小声で言ったつもりだったが、彼の耳に届いてし
まったらしい。観念し、晴明は泰明と目を合わせた。
「――今日は、お前と共にこの枕で眠ることが出来ない」
「――お師匠……」
 告げた瞬間、泰明の頬は仄かな朱に染まった。
 明日、彼は学校に行かなければならない。本当はこのまま泰明と同じベッドに入りたいところだが、今からそう
すれば彼の身体に負担をかけてしまうだろう。共に過ごせないことは残念だが、泰明を苦しめたくないのだ。
「――泰明。可能なときは、私と二人で枕を使ってくれるか?」
 しかし今日は無理だとしても、次の機会にはこの枕で眠りたい。気持ちを抑えられず、晴明は、泰明の耳元で
囁いた。
「――はい」
 僅かな沈黙の後、泰明は頷いた。自分を受け入れてくれたのだ。
 晴明は胸に光が広がるのを感じながら、泰明の頭に掌を乗せ、そっと唇を重ねた。


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