特別だと

「……お師匠」
 隣で眠っていた者が、目を開けて私を呼んだ。
「泰明。大丈夫、か?」
 その顔に視線を向け、問いかける。
 先ほどまで、私は彼に手を伸ばし、その温もりを感じていた。少なからず、疲労させてしまったと思う。まだ眠
いのならば、無理をすることはない。朝の訪れはまだ先だ。
「――はい。先に眠ってしまいすみません」
 泰明は起き上がり、頭を下げた。どうやら疲れは癒えているらしい。
「構わない。身体は、辛くないか?」
 私は安堵し、息を吐いてからまた質問をした。動くことは出来るようだが、痛みはまだ残っているかもしれな
い。だとすれば横になっていたほうが良い。
「……はい。お師匠は、いつも優しいから、辛くはありません」
 だが、私の不安は杞憂に終わった。彼は俯きながらも、柔らかな声で返答してくれたから。
 手を、そっと泰明の頭に置く。
「――そうか。大切なお前を、傷付けなかったのならば、良かった」
「お師匠……」
 瞬きもせず、こちらを見ている泰明。目を合わせてから、私は口を開いた。
「初めて逢ったときから、私にとってお前は大切な存在だ。もちろん……今は、あの頃とは別の意味でも特別だ
と想っているが」
 私の力を引き継いでいる彼は、生まれたときからとても大切な存在だ。そして今は、傍にいて何度でもこの手
を伸ばしたいとも感じている。
 これからも、この気持ちを泰明に伝えていきたいと、思う。
「――ありがとう、ございます」
 彼は頬に薄紅を浮かべながら、小さな声で礼を述べてくれた。
「……お前も、私を大切だと想ってくれるのか?」
 その様子が愛らしかったので、尋ねた。泰明の想いを聞くことが出来たら、嬉しいのだが。
 下を向き、口を噤む彼。だが、しばらくしてからその唇が動き始めた。
「――はい。お師匠は、私の胸に温もりをくださいましたから」
 泰明は、ゆっくりとこちらへ視線を向けた。その瞳はとても綺麗で、真っ直ぐだ。
 彼の気持ちが、伝わって来る。
「……それは良かった。では泰明、もう少し、休もうか」
 彼の頭に載せた手をそっと動かしてから、告げた。もう少し、彼とふたりで眠りたい。
 泰明は、頷く。私は礼の言葉を伝えてから、ゆっくりと彼の隣に横臥した。


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