時の流れすら

「――お師匠」
 自らの庵に入ろうとしていた晴明は、その声に足を止めた。
 隣に立っている声の主――泰明へと視線を向ける。彼はとても不安げに、晴明を見ていた。
 何か、心配なことでもあるのだろうか。
「どうした?」
 目を合わせ、尋ねる。本当は庵に泰明を招こうと思っていたが、その前に彼の悩みを知らなければいけない、
と感じた。
 泰明の唇が、動く。
「体調は、大丈夫ですか?」
 彼の言葉に、晴明は目を見開く。
 つい先ほどまで、晴明と泰明は内裏にいた。年の変わるこの時期、陰陽師がなすべきことは数え切れないほど
ある。そのため、彼は自分を気遣ってくれたようだ。
 年が明け帰宅が許されたのでこれからはゆっくり過ごしたい気分だが、そこまで激しく疲弊しているわけではな
い。
 だが。
「……大丈夫だ。案ずるな。だが……お前にひとつ頼みがある」
「何ですか?」
 泰明の真っ直ぐな瞳は、逸らされることがない。
 そして、吸い寄せられるように、晴明は彼を抱きしめた。
「――しばらく、動かずにいて欲しい」
 内裏で過ごしている間は、儀式ばかりで泰明と触れ合う暇もなかった。どうか今、その温もりを自分に分けて
欲しい。
「……はい」
 彼は一瞬身じろいだが、すぐに頷いてくれた。
 晴明は腕に少し力を込め、そっと泰明の頭をなでる。
 求めていた温もりを得て、晴明の胸は満たされて行った。

「すまなかったな、突然」
「いえ……」
 腕を緩め謝罪すると、泰明は俯いた。その頬は薄く染まっている。
 急な行為ではあったが、怒っているわけではないらしい。
 晴明は薄紅の頬に触れ、唇を動かした。
「――今、ようやく新しい年の訪れを実感出来た。お前の温もりを確かめられて、安堵したから」
 彼の傍に行かないと、駄目なのだ。時の流れすら掴めないほどに、余裕を失ってしまう。
「お師匠……」
「――泰明。今年も、よろしく頼む」
 頬に添えた掌をそっと動かしながら告げる。こんな自分でも良いのなら、今年も、ずっと傍にいて欲しい。
「――はい」
 彼は、頷く。晴明は感謝の言葉を述べた後、もう一度彼を抱きしめた。


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