たる


 夜。晴明は、室の傍で止まった。そっと呼吸し、呼ぶ。
「泰明」
 ほどなくして、聞こえた。
「お師匠。務めでしょうか」
 静寂は崩さず、尋ねる。眠る時刻を過ぎている。だが、拒むようですらない。
 安堵し、身は寄せる。そして、戸に手も添えた。
「少し、失礼する。疲れは、残っているか?」
 踏み込む。そして、見つめた。ようやく戻れた夜に、眠りを欲していることも、推測し得る。
 年の変わる時期は、休めない。務めも増える。帝に、一礼される時期だ。清め、素晴らしい年が祝えるよう努
める。新しき年を祝う今日、やっと帰宅は許された。
「安らぎに包まれているところです」
 彼は、首を横に振る。
「……では、ふたりで過ごしてくれるか?」
 呼吸し、訊いた。帝の傍で、ゆっくり話すことは無理だ。今、語らせてくれると嬉しい。
 泰明は、頷く。
「はい」
 表情を目に映し、寄る。そして、尋ねる。
「邪魔を取り、胸も見せてくれるか?」
 新しい、夜だ。少しでも、邪魔はしまおう。より泰明の傍で、過ごしたい。
 彼は、惑った様子で俯く。不安に思いながら、見つめる。だが。
「――無論、です」
 ほどなくして、頷き話してくれた。
 晴明は、安堵の呼吸を聞かせる。そして。
「泰明。今年も、傍にいてくれ。よろしく頼む」
 邪魔を払うことは少し止め、願った。少し、待つ。彼と、挨拶する。傍で、伝える。距離が詰まったら、無理
に過ごさせないから。
 泰明は、すぐに俯くことを止めた。小さな、挨拶が聞こえる。そして。呼吸する。
 晴明は、ゆっくり彼の帯に指で刻んだ。


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