たり 天狗は、庵の扉に手を振った。 「泰明」 戻った彼を、見つめる。美しい瞳は瞬かない。驚いているのだろう。 「――天狗。お師匠に、用か?」 ほどなくして、質問された。 「いや。お主と話したくてな」 天狗は、ゆっくりと否定する。 一日の務めが済んだ頃、今日も北山を訪ねてくれた泰明。傍にいられるときが過ぎようとした頃寂しさが募 り、庵でも傍にいたいと思ったのだ。 「……勝手に訪ねるな。お師匠の許可もない」 息を吐き、注意する彼。 「では、北山に、戻るか」 天狗は、踵を返す。泰明が怒れば、戻ろうと思っていたのだ。 が。 「――拒んでは、いない」 呼び止め、られた。 振り返る。彼の頬に、薄紅が見えた。嬉しい、のだろうか。 「――泰明」 愛らしい、彼。戻ることはやめ、泰明の傍に移る。 そして。 「拘束まで許した覚えは……」 彼を、一瞬拘束したとき。 「泰明、随分賑やかだな」 第三者の言葉が、聞こえた。 「――お師匠」 「晴明」 現れた邸の主を、互いに見る。驚き、腕はどけてしまった。 「天狗は、邸を明るくしてくれるな。ゆっくりしてくれ。夕餉も増やそう」 友は、美しい笑顔で去った。扉の位置が、戻る。 天狗は、息を吐く。庵にいることは問題なさそうだ。 悔しくないこともないが、嬉しい。泰明と過ごせるのだから、見透かされることくらいは許そう。 「――許可、取れたな」 彼に、囁く。 「――うるさい」 頬から薄紅は消さない、泰明。横を見ているが、拒もうとはしない。 改めて、そっと拘束する。幸せだと、思った。 |
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