隅へ 「泰明!」 窓から部屋に飛び込んだ天狗が、私の名を呼んだ。身体の上には服がない。空を飛ぶためか。 「……もっと静かに呼べ。聞こえている。」 窓の錠とカーテンを戻し、その目を見る。今は、夜だ。静けさを壊すべきではない。 「……分かった」 天狗は、普段よりずっと静かに答える。 「――天狗。用とは、何だ?」 いつもより小さく、訊いた。 先日、この時刻に逢って欲しいと天狗が意見した。日付の変わる時刻ではあったが、頷いたのだ。真っ直ぐな 目をしていたので、大切な用があるのだろう。 私がそう思ったとき、天狗は片手に持った箱を見せた。 「ほら」 「……これは?」 綺麗な紙に包まれた箱を見つめながら、尋ねる。何故、箱を載せた手を突然伸ばしたのだろう。 天狗は、穏やかに返答した。 「――泰明。誕生日、おめでとう。それを伝えようと思ってな」 思わず、息を呑む。 今日は、九月十四日。私の生まれた日だ。 「――天狗、ありがとう」 ゆっくりと礼を述べてから、箱を持つ。祝うため逢ってくれたことが、嬉しかった。 「贈りもの、ちゃんと見ろよ」 「分かった……」 その言葉に頷き、そっと紙と箱を解く。そして、贈りものを見た。 鉄製と思われる鳥が、目に映った。 置きもの、だろうか。箱を机に載せ用途を推測していると、天狗が鳥の姿を指した。 「――キャンドルスタンドだ。装飾品も展示のように纏められる。キーケースや腕時計ならあるだろう?」 もう一度、見る。どうやら、蝋燭を鳥の背に置けるよう作られているらしい。そして、頭や胴に装飾品を分か りやすく纏められるようだ。 「――持っている。ありがとう」 改めて、礼を述べた。女性の付けるような宝飾にあまり興味はないが、腕時計やキーケースは持ってい る。大事に、使わせて貰おう。 「――よろしい。では蝋燭、立てるぞ」 天狗は、笑顔で箱の隅へ手を伸ばす。良く見ると、小さな蝋燭とマッチがあった。 「用意、したのか」 「誕生日なら、蝋燭があってもおかしくはないだろう?ほら、吹き消せ」 天狗は返答しながら器用に火を灯し、蝋燭を私が持っているスタンドに置く。 子どものようだと思い少し迷ったが、嫌ではなかった。深く、呼吸してから、全力で息を吐いた。 「――暗い」 私は、呟く。仄かな灯がない。吹き消せたらしい。 「――これでお前の一年は、幸せだと確定した」 天狗の言葉が聞こえた、と思った直後。 暗い部屋で、灯りのような手に頭をなでられた。 |
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