すべき点


「では晴明、お休み」
 私の隣に横たわり、天狗は、挨拶をしてくれた。彼には少し小さな褥なので、たくましい身体を預け切れ
ずにいる。
「――天狗、もう少し私のほうへ来い。身体は冷やさぬほうがゆっくり休めるだろう」
 傍に来てくれたら、身体の温もりを少しは彼に与えることが出来るだろう。私は、彼を促す。
 その唇を綻ばせ、天狗はそっとこちらへと近付いた。
「悪いな。ありがとう、晴明」
 私の招きを承諾し、今宵、この邸に天狗は来てくれた。先ほどまで、互いの想いを確認していたのだ。そして
これから、ふたりで穏やかな眠りを堪能するつもりだったのだが。
「――もっと広い褥を用意したほうが良いな」
 私は、呟いた。自分が寝るには丁度良いが、新調すれば、彼は喜んでくれるかもしれない。
「気にするな。別に構わん」
 だが、天狗は笑顔で口を開いた。
「そうなのか。度量の広さを、私も見習うべきだな」
 そっと、彼に抱き付いた。細かいことを気にしない。天狗の、美点だ。
「……こんなときくらいしか、余裕を見せられんからな。普段、お前には敵わん」
 目が、合う。口調は自らを嘲るようだが、とても優しい瞳だ。
 彼は、普段の自分に余裕がないと思っているようだが。
「――私をずっと大切にしてくれているお前は、充分に度量の広い変わり者だと思うがな」
 彼は、酔狂な私にずっと付き合ってくれている。そのようなところを、私は愛しく想っているのだ。
「……そうかもしれんな」
 私の言葉にも怒らず、愛しい変わり者をは一瞬目を見開いた後、すぐに笑ってくれた。


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