漆黒と呪い 「お師匠、呪い……」 泰明は、不安げに私の顔を仰いだ。 「明日の朝に掛けなおせば良いだろう。今は、そのままでいなさい」 「……はい」 腕の中のお前は、頷きながら返事をした。普段は左頬にある呪いは、綺麗に解けている。 邸内の私の寝室。褥の上。夜も更けたこの時刻に、この場所にいるのは二人だけだ。しかし泰明は、何故か素 肌に戻った頬を気にしている。 「泰明、何故そんなに呪いを気にする?」 泰明は、二人きりのときでなければ素顔を見せてはくれない。二人で出掛ける時でさえそうだ。外出するとき は、必ず簡単には解けぬよう自分で術を施す。 「いきなり呪いのない顔を見たら、皆驚くでしょう」 「それはそうかもしれないが……」 そっと、右手で泰明の頬に触れた。 「こんなに美しいのに、呪いで覆ってしまうのはもったいないだろう」 「また、そのようなことを――っ」 なめらかな肌をそっと撫でる。小さな声が上がった。その声をのむように俯いたお前に、そっと唇を重ねた。 「お師匠……」 そう呟き、顔に紅葉を散らすお前を見ると、いつも気持ちが抑えられなくなる。 「……泰明、先程の言葉は撤回しよう。お前には、やはり呪いがあった方が良い」 「――何故ですか?」 泰明は、瞳を見開いて尋ねた。私はもう一度左頬を撫でながら、答える。 「こんなに綺麗な顔は、呪いで隠すくらいが丁度良い。呪いがなかったら、きっと誰かに攫われてしまう」 お前が攫われてしまうなど、耐えられない。 「お師匠……冗談を言うのはやめて下さい」 泰明は眉を寄せる。だが。 「冗談ではない、本気でそう思っている。それに――」 一度言葉を切ってから、続けた。 「こんなに綺麗なお前を知っているのは、私だけで良い」 そっと、お前の細い身体を褥に横たえさせる。 「……疲れていないか、泰明?」 「大丈夫、です……」 顔を真紅に染めて固く目を閉じた泰明の単の帯に、ゆっくりと手を掛けた。 |
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