せた


「泰明。入らせてくれるか?」
 途切れない、聖夜。師の声が自室に聞こえた。机の上に見える袋を掴み、話す。
「お師匠。扉に移ります」
 椅子から踏み込み、手を扉に寄せる。
「ありがとう。失礼する」
 ほどなくして、微笑と美しい紙袋を見た。お師匠の傍で過ごせる。私との距離が、ほぼ消える。
 呼吸する。先ほど持った品を、揺らす。
「お師匠」
 少し小さな声。聞こえていれば、良いのだが。
「何だ?」
 師が、優しく接してくれる。胸のざわめきが少し収まった。そっと、袋を師匠に示す。
「聖夜、です」
 まだ、聖夜は消えない。夕食のときは天狗と泰継を招き過ごした。賑やかで、喜ばしい、とき。だが今は、静
かに師匠を見つめられる。
 綺麗な指が、伸ばされる。
「ありがとう。先に貰ってしまったな。指を、添えて欲しい」
 すぐに、声が聞こえた。先ほどの紙袋は、寄せられている。
 贈りもの。満たされる祝福。一瞬、黙す。
 だが、話したい。一礼し、口を開く。
「ありがとう、ございます」
 師は穏やかに私を見つめながら、囁く。
「見て良いか?」
「無論です」
 すぐに、頷いた。拒否する理由はない。
「楽しみに解く。泰明も、開きなさい」
 促され、そっと綺麗な箱を出す。上質な包装紙に触れる。可能な限り丁寧に外し、指を箱に添えた。刹那。
「――大切に置く。ありがとう」
 言葉を、聞いた。師の手に、贈りものが見える。
 木製の帽子立てを選んだ。正式な儀の際は烏帽子を着用される。保管出来ると推測した。
 師の笑みは崩れない。安堵しつつ、呟く。
「いえ。敷くものでしょうか」
 師の選ばれた品も、映る。少し厚い台。初めて見る。
「乗れば適度に休めると聞く。試すか?」
 そっと質問される。贈りものについて、知りたい。
「はい」
 学ぶと決め、頷く。贈りものは、そっと地に移す。ゆっくりと、台に乗る。
 柔軟出来る姿勢。癒されるゆっくりと、目を閉じたとき。
「泰明。耳も塞ぐと、きっとより安らぎに触れられる」
 柔らかな声が響いた。師が傍にいるらしい。
 見つめて話したい、が。
「あ」
 私の両耳が、優しく包まれた。手を添えられているらしい。柔らかな暗さ。目が、少し開くことを拒んだ。刹
那。
「更に、遮るか」
 耳の露出が少なくとも、聞こえる響き。
 耳朶の、傍。接近を悟る。唇だと、直感する。頬は熱い。だが、姿勢を変えるつもりはない。
 直後。温もりを、貰った。


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