るた


「では、帰る。北山に踏み込めた。天狗、ありがとう」
 夕。北山も、包まれた。天狗に、挨拶する。帰る、ときだ。
 邸は、待つ。私が、いられるところだ。呼吸する。癒された。
 務めを済ませ、しばらく天狗と距離は詰められた。今、帰る。
 備え、少し待つ。静かに、戻るのだ。寂しさは痛むが、移る。
 天狗に、知らせる。少し寂しいが、帰宅する、と、歩んだ、が。
「――泰明」
 すぐ、止められた。
 天狗の腕が、見える。歩めない。背ごと、包まれた。少し、痛む。
「指は、移せ」
 呼吸してから、教えた。少し、強い。迷う。
「背が、見えてな。悪い」
 謝られた。腕は、包むことを止めない。天狗の、力だ。拒めない。
「てん、ぐ……」
 呼吸すら、難しい。途切れつつ、呼んだ。そして。
「悪い。見惚れた」
 そっと、強い力は消えた。地を、見る。天狗の言葉が、聞こえる。拒みたく、なかった。そっと、呼吸する。
 私の傍にいることを、願ったらしい。嬉しさが、響く。
 帰宅は、止めない。だが、伝えるのだ。
 少し待ち、語る。
「――弱めれば、少し北山にいられる」
 力を弱めてくれた腕の傍だ。癒される。しばらく、包まれるのだ。暗さが今より美しく映るとき、歩む。
 天狗は、少し黙った。しばらく、待つ。呼吸も、悟る。そして。
「ありがとう」
 静かな言葉が、聞こえた。歩みを、休める。
 痛みは既に伝わらない。すぐ、守護する腕も移せる。だが、待つ。
 呼吸は、鎮まる。胸に、嬉しさを響かせてくれた。嬉しい。
 瞳は、瞼で塞ぐ。静かに、守られた。


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