れる


「――少し、離れるか。泰継」
 元日の、夜。天狗は、傍をゆっくり拒んだ。
 夜は、深まった。眠らせよう。
「寄り、困らせた。浅慮を詫びる。すまない」
 隣の彼は、少し、俯く。小さく呼吸する。天狗は並び、しばらく眠らずにいた。優しいときを、過ごす。
 昨年の瀬から、泰継は北山に見られず離れていた。休まず、務める。素晴らしい年を呼ぶ。美しき微笑み
と、寄れず眠った。
 陰陽師の務めを邪魔するつもりはない。失策せず、備える彼だ。年始も、務めてくれることは誇らしい。
 だが、やはり寂しく思った。並び、眠れないと安らがない。
 ゆっくり、伝える。
「違う。もっと寄りたい。泰継が、惑う」
 元日の夕刻、戻ってくれた。彼と、更に詰められると嬉しい。優しさで、埋まる。だが、困らせようと思
わぬ。
 泰継は、俯くことをやめる。そして。
「……戻りたくない」
 小さな言葉が、聞こえた。
「ずっと寄っておらん。寄って過ごせば、苦しませる」
 そっと、天狗は説明する。願いを、堪える。嬉しさも、潜む。
 今、彼はすぐ傍だ。ずっと保てば、きっと堪え切れない。だから、離れてくれると休める。
 ゆっくり、待つ。そして。
「天狗と、休む」
 泰継は、頷いてくれた。並び、過ごす。頬は少し朱く、惑っている。
 呼吸する。だが、拒まれない。
 ゆっくり、寄る。そして。
「……悪い。幸せだ」
 彼の耳に、話す。
 きっと苦しませる。疲れさせる。申し訳ない。天狗は、少し俯く。少し、迷う。
 だが、傍で過ごせることが幸せだと、疑えない。
 嬉しさを、伝えよう。
 ゆっくり、泰継の腰が移る。腕を、添える。
 守る布は、ゆっくり、取った。


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