訪れと休息

「――泰明?」
 朝の訪れを感じた。視線を横に向け、そこにいる者を呼びながら、晴明はゆっくりと目を開ける。
「お師匠……おはよう、ございます」
 隣にいた彼――泰明は、小さな声で返答した。
 瞼を閉じてから、もう一度ゆっくりと目を開く彼。どうやら、起きたのはつい先ほどのようだ。いつもならば、
互いの温もりを感じた後も自分よりもずっと早く目を覚ましているというのに、これは珍しい。
「おはよう。ゆっくり、眠っていたのだな」
「――申し訳、ありません」
 挨拶をしてから晴明が唇を動かすと、泰明は謝罪した。
「……お前が謝る必要はない。昨夜は無理をさせてしまったからな。すまない」
 晴明は、繋がっている手を強く握る。
 最近、彼は多数の任務をこなしており、ずっと忙しかった。温もりを伝え合う時間さえもないほどに。だが、昨
夜はようやく泰明に近付くことが出来た。そのため、気持ちの昂ぶりを止められなかったのだ。
 視線の先にいる彼は、頬に薄紅を浮かべる。だが、短い沈黙の後、口を開いた。
「――いえ、違います」
「泰明?」
 予想していなかった、否定の言葉。晴明が瞳を覗き込むと、彼は言った。
「――お師匠に触れることが出来たから、私の中は満たされました。そのことに安堵して、柔らかな眠りが訪れ
たのだと思います」
 その頬は、先ほどまでと同じく薄紅色に染まっている。だが、その目は真っ直ぐに晴明へと向けられていた。
 彼に幸せな夢を与えることが出来た。晴明の胸も、優しい温もりに満たされる。
「……それは良かった。では泰明、もう少し休んでいなさい」
 晴明は、唇を動かした。いくら安らかに眠ることが出来たといっても、まだ睡眠は足りていないだろう。自分
は充分に休息をしたから、後のことは任せて欲しい。
「お師匠――」
「まだ、時間には余裕があるだろう。私が朝の準備をするから、少し待っていてくれ」
 晴明は、片手を彼の髪へと伸ばす。
 泰明は少しの間口を噤んでいたが、ほどなくして素直に頷いてくれた。


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