のつ 夕の料理は、摂った。ゆっくりと身体を捻り、天狗は訊く。 「泰継。移るか?」 傍の机を、指で示す。 夕餉を摂り、眠るまで机に戻る彼。山に戻ったときも、すぐ書を捲る。 小さく呼吸した泰継は、そっと首を横に振った。 「今日は、少し休む。書も、明日手に取る」 充分に、知識を得たと思う。料理のときまで、ずっと彼は机の傍で努めた。泰継を、癒そう。場所を移す休息 も、必要だ。 天狗は、そっと彼の目を双眸に映す。 そして、身体を寄せた。 「ゆっくり、安らぐことも必要だな」 「――天狗?」 不思議だと思っているだろう。ずっと、傍にいられて。泰継が、首を少し傾ける。 美しい瞳を見つめながら、尋ねる。 「儂を、ゆっくり見つめてくれるか?」 知識を得る彼は、とても知的だ。誇らしいとすら思う。だが、ふたりでゆっくり過ごせないことは寂しく、泰継 の背を瞳に映すことで胸を埋める。 身体を、寄せて欲しい。 瞬きせず、美しい目が天狗を映す。普段とは違う夜に、困惑しているようだ。離れるべきかもしれない。反省 した、とき。 彼は、微笑んでくれた。そっと頷き、見つめる表情が愛らしく、寂しさが消える。 書とは違う。知識は与えられない。昔話も、きっと頭から消えたと思う。泰継にとって、ゆっくり過ごし更に 眠ることは変則だ。不安かもしれない。取り除こう。今の彼に、幸せだと思う余裕はないと思う。普段と違う時 刻に微笑みを保つ術は知らない。だが、安らぎは与えてみせる。 天狗は、更に身体を寄せた。まずは、少しでも嬉しさを伝えよう。 泰継の微笑みが、優しさを更に宿したように思った。 |
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