のさ


「では、戻るか。泰継」
 夜。石の傍で、休んだ。少し待つ。ゆっくり呼吸し、天狗は、尋ねる。
「庵に歩もう、天狗」
 彼は頷いた。安らぐ場所。風に吹かれ、ふたりで歩める。
 並んで、夜を見るとき。眠る前に充分癒された。帰ろう。
 天狗は、少し沈黙を破った。泰継と移るよりも先に話す。彼も振り向いてくれた。
「眠る前に少し疲労すると、安らぐな。もう少し、いたいが」
 天狗がゆっくり歩む。ほど良い重荷は穏やかな眠りをくれる。今はまだ足も自在に操れるので、もう少し負担
を得ても構わない。
「――天狗」
 しばらく進んだとき、泰継の声が響いた。引き止められ、天狗は見る。そして、彼に訊いた。
「泰継、儂のところに来ないのか?」
 彼の位置が、少し遠い。戻りたくない理由が存在するらしい。天狗は、待った。そして。
「少し、傍に踏み込んで欲しい」
 聞こえた。言葉を胸の中で繰り返し、そっと泰継に寄る。やや遠い場所なので、一瞬走った。彼と過ごせるな
らば、迷わない。
「泰継……」
 小さく、名を響かせたとき。
「少し、負担を得られたか?」
 綺麗な瞳に、映された。天狗は息を呑む。
 安らかな眠りに備えられるよう、走らせてくれた。一瞬走ることでの疲れはほぼないが、溢れる。努力に愛し
さを感じるのだ。
「ありがとう。しばらく過ごしたい。許してくれるか?」
 天狗は尋ねる。庵で安らぐときも傍にいてくれると思う。だが、庵ではない場所を堪能することも幸せなの
だ。
 彼を、見つめる。ほどなくして、泰継は頷いてくれた。
 安堵する。ふたりの足先が触れるような位置。天狗は彼を映す。微笑された。


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