のが


 夜。傍の文机を清めた。静かで、邪魔する音はない。眠りには備えたが、待つ。書と、少し黙す。
「天狗」
 書は読まず、呼吸する。
「横で休むか?泰継」
 傍に、いた。彼は、微笑する。安らぎを得たらしい。
 頷き、すぐ移る。
 笑みはずっと崩れない。天狗に、接するのだ。杯が、見える。
 言葉に、託す。
「少し、呼吸しろ」
 彼はずっと微笑んでいる。指の添えられた杯を、見る。優しく眠れる、夜だ。
「――癒せん。香るぞ。泰継は、映すな。杯で、苦しむ」
 少し、距離を取られた。杯が、静められる。そっと呼吸する。睡魔に、一瞬苦しんだ。少し、待つ。
 杯の、香りだ。遠くに見える。だが、吸える。天狗は、いるのだ。私の、唇は休まない。だが。
「拒まない」
 そっと、決めた。天狗を、見る。香りは不得手だが、接する。休んで、欲しいと寄る。夜の静寂を、得たい。
 驚くことは、知っていた。見つめられる。だが。
「では、止めん」
 響いた、刹那。
 包まれた。腕が、寄ったらしい。
「……少し、吸う」
 呼吸は、少し苦しい。だが、安らぐ。移りたくない。優しく、庇護されているから。
「愛らしくてな。悪かった。美酒の、誤りを詫びる。怒ることも、拒否せん」
「腕が、接する。移る理由はない」
 響かせた。そっと、包んでくれる。指に、守られた。嬉しさは、強い。天狗が、そっと呼吸する。ふたりの、
夜だ。
「――和める。ありがとう」
 言葉に、頷いた。褥は、少し使わず待つ。天狗に、包まれる。
 腕の力は、強い。瞳を、瞼で塞ぐ。安らぎが、響いた。


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