無意識に動いて

 年が明けて、初めて北山の庵で迎えた夜。
「――泰継」
 隣の褥にいた天狗が、口を開いた。
「何だ?」
 起き上がってから視線を横に向け、尋ねる。彼は短い沈黙の後、唇を動かした。
「――寝る前に、少しだけ触れても良いか?」
 突然の問いに、思わず息を呑む。
 だが、しばらくしてから返答した。
「……ああ」
 年の変わるこの時期、陰陽師がなすべきことは多数ある。私も昨年の終わりから夕刻までは内裏にいた。そ
のため、何日も天狗には触れていないのだ。
 私は、彼の傍にいられたら嬉しい。天狗も同じように思ってくれているのなら、もっと幸せだ。拒む理由はな
い。
「――ありがとう」
 天狗は唇を綻ばせ、こちらの褥へと移って来た。
 彼は片手を私の腰に回すと、もう一方の手を私の頬に添えた。
 私は、そっと目を閉じる。
 ほどなくして、唇に柔らかなものが当てられていると感じた。
 天狗の体温が、伝わって来る。
 しばらくしてから、唇を解放された。私は、ゆっくりと目を開ける。
 余韻を感じた直後、彼の手が単の帯へ伸ばされていることに気付いた。
「……天狗」
 驚いて、呼びかける。彼は目を見開き、手を止めた。
「すまない!無意識に……」
 無理に動きを止めたせいか、その手は少し震えている。
 天狗は、本当に私の傍へ行きたいと思ってくれているようだ。
 そしてその願いは、きっと私も同じだと思う。
 一度深く呼吸をしてから、私は口を開いた。
「――天狗。謝らないで、欲しい。それから、質問がある」
「どうした?」
 私の瞳を覗き込む彼。頬の熱を感じながら、ゆっくりと告げた。
「――もっと、お前とふたりの時間を過ごしたいのだ。良いだろうか?」
 無意識に動いてしまうほど、私の近くに行きたいと思ってくれたことが、嬉しかった。今、私も、天狗の傍へ
行きたいと強く思っている。
 彼は、目を見開く。そして、唇を動かした。
「――良い、のか?」
 天狗から視線を逸らさず、返答した。
「……私は、お前の傍にいられたら幸せだ」
 共に過ごしたい。彼の、温もりが欲しい。
 そう思いながら伝えると、天狗は優しく笑ってくれた。
「――そうか」
 一瞬、強く私を抱きしめる天狗。
 そして、単の帯も、彼の手によって解かれた。


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