もっと

 
  宮中での厳かな儀を終え、晴明は泰明と二人、帰路についていた。
 元日の夕刻、雪の積もった静かな道を共に歩いている。
 だが、こうしていると泰明の顔を近くで見ることが出来ない。
「――泰明、少し足を止めてくれないか?」
「はい」
 晴明が言うと、泰明は返事をして立ち止まった。
「急にすまないな」
 晴明も歩みを止め、隣に立つ泰明の顔を覗き込んだ。顔には自然と微笑が浮かぶ。傍に控えていた彼に触れた
かったが、陰陽師として新しい年を迎えるための儀に臨んでいる間はこうして顔を見ることさえ出来なかった。
「――お師匠、お疲れですか?」
 しばし見つめていると、泰明は不安げな表情を浮かべて晴明を仰いだ。突然足を止めるよう頼んだのは、疲労し
ているからだと思ったのだろう。
 確かに疲労感はある。だが、今足を止めたのは彼のことを想っていたからだ。
「――そうだな、疲れてはいるが……今は少し考えごとをしていた」
「何を考えておられたのですか?」
 微かに首を傾ける泰明。その頭に、そっと手を乗せた。
「……お前と褥の上で年明けを迎えられなくて残念だったと、そう思っていたのだ」
「――お師匠」
 晴明が告げると、泰明は少し俯いた。薄い紅色に染まった頬が周囲の雪に映える。
 もっと、触れたい。
 頭に手を置いたまま、もう一方の手をその頬に添える。泰明は顔を上げた。
 ゆっくりと、唇を重ねる。
 泰明は一瞬だけ身を震わせたが、離れようとはしなかった。
 晴明のもの以上に冷えた唇。少しでも温度を注ぎたくて、しばらくの間そのままでいた。
「――ようやく、お前に触れられた。今年初めての口付けだ」
 身体を離したとき、泰明に差した紅色は先ほどよりも濃くなっていたように見えた。
「――はい」
 小さな声と共に頷いた泰明に、晴明は微笑んだ。触れた唇の温度を、思い返しながら。


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