見つめあう

 
 真上に、天狗の真剣な顔がある。褥に背を預けた私を見つめ、視線の先にいる者は口を開いた。
「――泰継、怖いなら目を閉じていても良いぞ」
 紡がれた言葉は、聞き慣れたものだった。
「――お前は、いつもそう言うな」
「いつも?」
 天狗は訝しげな表情を浮かべている。意味を説くため、私は続けた。
「……目を閉じていても良い、と」
「――ああ、そうかもしれないな」
 自覚がなかったのか、僅かに沈黙してから天狗は返事をした。
 重なり触れあうとき、天狗は必ず目を閉じていても良い、と言う。私を気遣ってくれる、優しい言葉だ。
 だが――それに従うことを、したくはない。
「――私は、目を閉じたくない」
「――どうしてだ?」
 天狗の瞳に驚きの色がある。私は、答えた。
「……天狗を見ていたいのだ。お前から目を逸らしたくない……」
 天狗の普段とは異なる表情や自分の熱を帯びて行く身体を見ることに、抵抗や恐怖心がないというわけではな
い。しかしそれよりも天狗を、私に優しく触れてくれる人を見つめていたい、という気持ちのほうが強いのだ。
 彼の全てを――愛しいと想っているから。
「――そうか。儂も、お前を見ていたいからな……」
 天狗は呟くように言うと、私に顔を近付けた。
「――天狗……」
「――これからはもう、目を閉じていても良い、と言わない。泰継、儂を見ていてくれ」
 天狗は微笑み、私の瞳を真っ直ぐに見た。
「……ああ。お前も、私を見ていてくれ」
 天狗族は夜目が利く。この時刻、外は暗く部屋も明るくはないが、どのような姿も彼の目に映ってしまうだろう。
 だが、構わない。天狗が私に自身を見ていて欲しいと願うように、私も天狗に自分の姿を見ていて欲しいと願って
いるのだ。彼の眼差しは、心を温もりを与えてくれる。
 私は手を伸ばし、天狗の頬に触れた。


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