崩しているからでは


「……っ!」
 私は、声を上げた。天狗が、私の身体を褥に密着させたのだ。
「――頬、赤いな、泰明。熱があるなら、やめるか?」
 私の瞳を覗き込みながら、天狗は低い声で問いかけて来た。
 朝になるまで、私はずっとこの庵にいる。天狗に、招かれたのだ。
 指摘された通り、確かに今、頬は熱くなっている。だが、それは。
「……体調を崩しているからではない。お前ならば、それくらい分かるだろう」
「そう、だな。では、何故赤い?」
 体調は、普段と変わらない。それも察することが出来ぬほど、天狗は愚かではないはずだ。無論、特別
な休息も必要ない。
 私が告げた直後、天狗は視線を逸らさず、僅かに唇を綻ばせた。
 本当の理由も、恐らく分かっているのだろう。思わず、眉を寄せる。だが、天狗の笑顔は消えなかった。
 答えれば、きっと呼吸まで乱れてしまう。だが何も告げずにいても、恐らくこの熱は下がらないだろう。私
は、小さく息を吐いてから、口を開いた。
 その、理由は。
「…………お前が、傍にいるから、だ」
 天狗が、近くにいるとき、私の体温はいつも高くなる。気持ちが、熱になっているのだろうか。
 鼓動も、速くなる。身体の動きも、鈍らせるような体温。だが、決して不快ではない。
 そう思ったとき、天狗が私の頬に手を伸ばした。
「――儂も、お前が傍にいるから、体温がいつもより高い。きっとお前よりも熱い。確かめて、みるか?」
 確かめたい、と答える間もなく、その唇が、私のそれを塞いだ。
 そして。私の帯が外される小さな音が、聞こえた。


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