着替えるには


 朝の訪れを感じ、私はゆっくりと目を開けた。
 すぐ横に、視線を向ける。予想していた通り、綺麗な瞳がそこにはあった。
「――お早う、泰明」
 繋いだ手は解かずに、挨拶をする。
「……お早うございます、お師匠」
 小さな声ではあったが、視線を逸らさずに彼は答えてくれた。
「良く、眠れたか?」
「――はい」
 泰明は、静かに唇を動かした。
 昨夜、私はずっと彼の傍にいた。きっと泰明も、私の温もりを感じてくれたと思う。
 褥から出れば、この時間は終わってしまう。それが惜しくて、思わず彼の手を強く握った。
 彼は、目を見開いた。すぐに力を緩め、その瞳を覗き込む。
「……痛むか?すまない」
 随分身勝手なことをした、と思う。泰明の痛みを考慮せず、力を入れてしまった。
 彼は呆れているだろうか、と思ったとき。
「――大丈夫、です」
 泰明は返答してから、私の手を強く握ってくれた。
 息を呑む。同時に、胸が満たされて行った。
 泰明は、とても綺麗だ。手を伸ばすことを、躊躇ってしまうほどに。
 だが、綺麗な――純粋な彼は、いつもこうして真っ直ぐ応えてくれる。
 それが嬉しいから、私は何度も泰明に手を伸ばすのだ。
「まだ――時間には余裕がある。もう少し、傍にいてくれ」
 視線を横に向け、頼んだ。着替えるには、まだ早い。もう少し、ふたりの時間を堪能したいのだ。
「――はい」
 泰明は、口を開いた。その声は、柔らかい。
 幸せを感じながら、私はゆっくりと瞼を閉じた。


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