かて


 胸に手を添え、身に布を返したとき。
「――泰継」
 天狗の言葉が、私を止めた。
 振り返ろうとした、刹那。
 彼の唇に、言葉を話し呼吸するところが遮られた。驚いたが、胸は、遠ざけたくない。逃げずに、瞼で瞳を塞
ぐ。
「てん、ぐ」
 呼吸が戻ったとき、呟いた。彼を、見つめる。
 天狗とは、ずっと互いに距離をなくしていた。眠りに備えてから、夜更けの時刻まで。今も、彼は近くにいて
くれる。
「悪い。傍が、恋しくなった。泰継の傍だと、おかしなことばかりするな」
 私の唇を塞がず、天狗は、謝罪した。嘲り、少し俯く彼。私の胸に、苦しさが宿る。
 捨てるように置かれた布を身に戻したのは、充分な幸せに包まれているから。眠っても、愛しさに守られると
思った。天狗が傍にいることを、拒んだのではない。
 ゆっくりと、首を横に振る。
「……謝る必要は、ない。強引でも、傍にいられると幸せだ」
 分かって欲しい。例え不意に唇が塞がれても、幸せが消えるわけではないのだ。眠りに移ったときも、きっと
互いのことを見つめられる。そして、私が恋しくて唇を寄せてくれたことは、嬉しい。
 少し驚いたように、私を見る彼。
「眠るときの腕も、嬉しいか?」
 そして、微笑みながら私に尋ねる。
 胸の苦しみが、少し増す。だが、無論、拒むつもりはない。充分に幸せは貰ったが、もっと近くで過ごせれば
嬉しいから。
 そっと、私が頷いたとき。天狗が眠りに備え、ゆっくりと横を見ながら膝を少し曲げる姿を見せた。
 静かに、腕の傍に身体を寄せる。そして。
 優しく、拘束された。


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