関係が変わって

 今、私の真下には褥に仰臥した泰明がいる。夜の帳が完全に下りた刻、この庵には二人しかいない。
 以前は師匠でしかなかった私が、こうして彼の傍にいる。そう考えると、いつも不思議な感覚に囚われる。
 師弟という関係を越えたいと願ったのは、恐らく泰明よりも私のほうが早かっただろう。彼の真っ直ぐな心を守り
たいと、いつからか思うようになっていた。それが叶い、私はとても幸せだ。
 だが、不安もある。泰明の傍にいる者が本当に私で良いのだろうか、と、考えてしまうのだ。
 彼を疑うつもりは全くない。私の心が勝手に乱れているだけだ。
 泰明が誕生したとき、私は彼を支えて行くことを誓った。そして、泰明が自分にとっての大切なものを手にしてく
れれば良いと思っていたのだ。
 私は、ずっと彼の師でいるべきだったのではないだろうか。私が想いを抱かなければ、いつか私よりも泰明に相
応しい人が現れたのではないだろうか。私はただ、師匠として彼を導いていれば良かったのではないだろうか。
 いくら自身に問いかけても、答えなど出ないことは分かっている。それでも、私の中からこの疑念は消えな
かった。
「――お師匠?」
 重々しい感情に胸が痛んだとき、泰明の声で我に返った。
 身を案じてくれている表情。私の顔を映す双眸。微かに赤い頬。
 私を求めているのだと、教えてくれている。
 そうだ、忘れていた。
 私だけが彼を想っているわけではない。泰明の気持ちも、きっと何も変わらないのだ。
 関係を変えたことが間違っていたのだとしても、絶対に彼を悲しませはしない。
 泰明の視線が向けられている。私は、彼に応えなければならない。
「……ああ、すまない。泰明……愛している」
 想いを伝え、より顔を近付ける。ゆっくりと、唇を重ね合わせた。


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