かねて 夜。褥に背を預ける私を、天狗が見つめていた。 「――泰継」 身体を、私に寄せる彼。思わず、瞼で瞳を塞ぐ。 嬉しい、と思う。だが始まることを予想すると、恐ろしさもあった。紛らわすように、拳を作る。だが、不安 は薄れるはずもない。唇を、噛んだ。 刹那。 拳に、掌を添えられたように思った。 「てん、ぐ……?」 瞳を塞ぐことをやめ、もう一度彼を見つめる。やはり、天狗は拳に手を伸ばしていた。 拳に手を載せられることはあまりない。急に何故だろうと思ったとき。 彼は、優しく笑った。 「――綺麗だな、手の甲も」 不思議で、驚きはしたが、無論嫌ではない。拳に伸ばされた手が、何度も往復する。嬉しかった。ときおり深 く呼吸し、天狗の姿を、見つめる。 幸せだと、思えるようになって行く。優しい手のおかげだ。自然と、指が伸び、不安も薄くなる。 そして、分かった。 私の恐怖を和らげるため、彼は手を伸ばしてくれたのだと。変に拳など作れば余計恐怖は増すと、分 かっていたのだろう。 恐ろしさが消えたわけではない。だが、もう身体を伸ばせる。 怯える私を待ってくれた。強引に潰そうとした恐怖を咎めることもなく、そっと手を伸ばしてくれたのだ。想い が、幸せをくれたから。 「……ありがとう、天狗。大丈夫、だ」 「――ありがとう」 私が見つめながら答えると、彼はもう一度笑った。 不安や恐怖ではなく、愛しさが、増す。 そして。 私が纏う単の帯は、天狗に引かれた。 |
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