構わないが

 帯の位置を軽く調整しながら、単を纏い終えた天狗が、こちらを向いた。
「――では寝るか、晴明」
 彼の言葉に頷いてから、私は、尋ねた。
「そうだな。天狗……抱きついても、良いか?」
「……好きにしろ」
 彼は一瞬目を見開いたが、すぐに優しく笑い、寝転んだ。
 今宵、天狗はこの庵に泊まっている。私の誘いを承知してくれたのだ。そして。つい先ほどまで、私は彼のす
ぐ近くにいた。
「ありがとう……」
 褥に横臥してから、たくましいその身体に腕を絡ませ、天狗を見つめる。
「――どうかしたのか?」
 しばらくすると、彼は視線に気付いたのか、こちらを見ながら唇を動かした。
 その問いに答えるため、私は口を開く。
「――天狗。お前は、優しいな」
「……急に、どうした」
 彼は瞬きもせず、私に問いかける。どうやら驚かせてしまったらしい。
 だが、これは本当の気持ちだ。
 彼に、説明した。
「ゆっくり、手を動かしてくれるから」
 天狗は傍に来るとき、私を急かそうとはしない。少しずつ近付いて来てくれるのだ。その度に、彼への想いは
強くなる。
「――お前のことを気遣うと、自然とそうなる。もっと手荒にしたほうが良いのか?」
 短い沈黙の後、彼は笑顔で私の瞳を覗き込んだ。
 少し、乱暴な天狗。そのような彼も魅力的だということは知っている。
 だが。
「それでも構わないが……私は、優しいお前も好きだ」
 私を急かさずにいてくれる彼に、不満があるわけではない。ゆっくりと私の温もりを確かめてくれるその手
を、私は愛しく想っているのだ。
「……そうか」
 天狗は静かに頷き、私を抱きしめた。
 腰に置かれた手が、動き始める。
 優しく身体をなでられると、やはり安堵する。
 私は、そっと瞼を閉じた。


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