甍の


 私は、チョコレートが並んだプレートに手を伸ばした。
「充分冷えているようだな。泰継」
 冷えた品を隣で見た天狗が、嬉しそうに頷く。
 二月十四日。バレンタインデーである今日、ふたりでチョコレートを作った。栄養を計算した、しつこさのな
い品だ。
「誤りは、ないはずだが……」
 ゆっくりと、冷えたプレートのチョコレートをひとつ持つ。
 レシピは暗記した。誤ったところはないと思う。だが、まずは唇に寄せなければ。
 実際に、舌で質を見る。
 癒される。香りも、良かった。
「――幸せそうだな、泰継」
「――嬉しくなる、品だ」
 彼の言葉に、頷く。ふたりで、素晴らしい菓子を作れたことが嬉しかった。恐らく、顔から読み取れたのだろ
う。
 舌でチョコレートを転がしながら、ゆっくりと瞳を瞼で塞ぐ。天狗にも、是非渡したい。
「――泰継」
 彼が、私を呼ぶ。返答しようとした、とき。
 瞼に、柔らかな弾力が寄せられた。
 彼の唇、だろうか。
「……天狗」
 驚きながら、隣にいる者を呼ぶ。弾力がなくなったので、瞳を塞ぐこともやめた。
「――悪い。瞼が、目に映ってな」
 視線を私から他のところに移し、彼が呟く。
 やはり、瞼に寄せられたのは唇だったらしい。
 思わず、うつむいた。胸が、壊れそうだ。息も、苦しい。
 だが。
「――今も、嬉しい」
 息が少し整ったとき、天狗を見つめた。優しい弾力。チョコレートの質を見たときと同じくらい、幸せだと、
思った。
 天狗は、瞬きもせず私を見ていたが。
 ほどなくして、安堵したように笑ってくれた。


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