はし 杯は、祝福の役目を全うした。天狗はゆっくり呼吸する。夜も、深まった。 「天狗。素晴らしいときを、ありがとう」 聞き慣れた声に、そっと頷く。感謝は小さく声にする。 「儂も、ありがとう晴明。さて、共にいる日は残っているぞ」 彼を、近くに迎えているのだ。杯を揃え、話すとき。酒宴の後、室内は整頓し休みに備えた。もう眠れる が、晴明と過ごせる嬉しさをしっかり見つめたい。 天狗は、褥を見る。 「美酒よりも好きなものを、求めてくれないか?」 ほどなくして、聞こえた。視線は彼に送る。静かな熱の宿っている微笑は、訴える。 すぐに、もっと寄れる。だが、前哨戦を少し長く務めるのも悪くない。天狗が、呼吸する。 「自然は癒してくれる。外に移るか?」 晴明の気持ちはほぼ悟りつつ、視線を遮らずに変わった提案をする。少し、興じたい。 彼は一瞬、目を見開く。だが、すぐにそっと表情は戻った。 「山を見つめるのか」 「庵で休むことを選ぶか?」 呟く大切な客に、もう一度訊く。 瞳を見つめる。晴明は、微笑を崩さない。少し手間は取らせたが、距離を詰めてくれる。 僅かな静寂の、後。 「外は、嬉しいが――先に、見つめ合うことを願う」 美しい唇が、知らせてくれた想い。言葉を巧みに操れる彼の、素朴な言葉。優しい響きが、嬉しい。 「晴明。やはり、褥で良いか?」 外もきっと楽しめる。だが、やはり褥にしよう。彼とゆっくり、寄りたい。 晴明は頷き、近くの褥に移ってくれた。 天狗は、位置を確認する。そっと、彼の帯に指を伸ばし、引いた。 |
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