がれ


 夜。泰明が、選んだ。庭で呼吸するのだ。
「――夜は、潜むな」
 傍が包む。響くのだ。泰明は、晴明を見つめる。癒された。
「清められます」
 夜の風は、消えない。疲れを癒してくれるのだ。
 師が見える。泰明の傍だ。微笑が、映る。ふたりで呼吸するのだ。泰明は、少し待つ。
 師に、疲れは読まれていた。嘘は、聞かせられない。夕が済んだとき、庭で呼吸すると晴明は決めてくれた。
 泰明の呼吸は戻る。風に包まれるのだ。胸が静められる。庭の美しさに疲れは散り、安らぐ。
「泰明、庵で休める」
 晴明が微笑みを崩さず、指で教える。夜は深い。休むときだ。見える。
 泰明が、歩くと決めた刹那。
「はい……」
 強い風に、一瞬足は止められた。泰明の足が、強さに少し惑う。
「風、だな」
「お師匠」
 すぐに、晴明が寄った。泰明の呼吸が、一瞬迷う。
 晴明の瞳が映る。微笑は潜むが、泰明を映す美しさに、包まれる。腕も近い。冷たさは響かない。そして。
「風は、去った」
 すぐに、微笑みは戻った。美しさと、いられる。晴明が、身を憂い見つめてくれたこと。泰明は、悟る。
 呼吸する。胸の音は響く。嬉しさだ。
 そして、泰明は地を見る。非礼だが、師は映せない。頬が止まない。惑う。苦を見る。だが、準備する。
 泰明は、呼吸を響かせる。そして。
「――ありがとう、ございます」
 知らせた。優しい人に、分かって欲しい。呼吸を、少し静められた。見つめる。
「泰明」
 晴明の微笑は消えない。泰明が、安らいだとき。
 すぐに、見つめてくれたのか。師の唇で、額は、読まれていた。


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