がの


「泰明、私に耳を傾けて欲しい」
 午前零時。晴明の言葉に、部屋で書を読む手を止めた。
「お師匠。無論、聞きます」
 泰明は、扉を見つめる。師の願いを、嫌だと思うことはない。
「ありがとう。失礼する」
 静けさを壊さず、扉が移る。部屋に足を踏み込んだ晴明は、手に美しい箱を持っていた。微笑む師に、見惚れ
たとき、少し呼吸が苦しいと思った。瞳を見つめ、移さない。扉の位置が戻る。そして晴明は、泰明の傍で止ま
った。笑ったまま。箱を、指で示す。
「――箱、でしょうか」
 見せてくれたことを祈願し、尋ねるように呟く。
 師は、笑みを崩さず頷いてくれた。
「誕生日、おめでとう。泰明」
 泰明は、瞬くことなく、晴明と箱を双眸に映す。
「ありがとう、ございます」
 そして、小さく礼を言葉に変えた。
 九月十四日。師が、泰明に命を与えてくれた日だ。
「品が、箱に包まれている。蓋を取り、見て思ったことに耳を傾けたい」
 泰明は承知し、そっと箱の包装を除く。
 そして、小さな額のような雑貨を見た。風景画のよう、と推測する。だが、砂と硝子のみで風景を作ってい
る。
「……美しく、不思議です」
「サンドピクチャー。積もる砂が、美しい風景を描く品だ」
 そっと額に手を添えたとき、晴明が説いてくれた。
 音のほぼない、不思議な額の世界に見惚れる。静けさに、癒される。
「お師匠。ありがとう、ございます」
 改めて、言葉を伝える。安らぎをくれる品を、晴明は選んでくれた。嬉しく、思う。
「泰明。少し、横で見させてくれるか?」
 師に、訊かれる。驚いた、が。
「はい」
 断る理由など浮かばず、そっと頷いた。
「――ありがとう」
 机に、サンドピクチャーを移したとき。美しい微笑みが傍で見られた。胸は苦しい。だが、愛しさに勝るほど
ではない。
 零れる砂は、穏やかさを作る。
「静か、です」
「今」
 砂を邪魔せぬよう呟いたとき、晴明の言葉が聞こえ、泰明は見つめた。
「お師匠?」
 変わらぬ微笑みで、晴明は、頷く。
「少し、ハートが見えたように思えてな」
 驚きのあまり、一瞬泰明は呼吸を止めた。
 美しい砂を見つめるときは幸せで、癒される。優しい師が傍にいるのだから、胸に嬉しさも響く。泰明に、愛
らしすぎる模様は見えない。だが、晴明とふたりでハートを探せたら幸せだと思う。
「お師匠……」
 砂の風景は、見られない。穏やかな微笑みが、幸せをくれるのだ。
「泰明の目に映った風景も、聞かせてくれないか?」
 晴明の言葉に、迷ったとき。
 唇で、噤んだところは愛でられた。


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