豌が


「――天狗」
 聖夜の宴から帰宅し部屋で椅子に腰かけていた天狗は、呼びかけられ、扉を見つめた。
「泰継。話が、あるのか?」
「大丈夫、か?」
 呼びかけの主である彼に尋ねると、少し不安そうに訊かれた。
「当然だ」
 扉から視線を移さず、返答する。いつでも、歓迎だ。
「――ありがとう。失礼する」
 そして、扉に手を伸ばした泰継が現れた。後ろ手に、扉の位置を戻す彼。反対の手には、フロストバッグを提
げている。
「……儂に、寄れ」
 止まっている泰継に、促す。ふたりで話すときは、近くで見つめたい。
 彼は静かに息を吐き、ゆっくりと身体を寄せてくれた。
 そして。
「……ありがとう。天狗に、贈りたいと思う。聖夜、だから」
 バッグを持った手を、伸ばしてくれた。
「……ありがとう。確かめさせてくれるか?」
 少し驚いたが、とても嬉しかった。そっと、バッグを手に取る。
 泰継は、頷いてくれた。ゆっくりと、バッグに収められた箱を持つ。そして、綺麗な紙や箱を解いた。
 美しいガラスの、ポットが現れる。
「――梅酒を注ぐガラスだ。レンジにも、耐えられる」
 好ましく思い眺めていた天狗に、説明する彼。
 冷たい酒と、湯を注いだ酒を作れるということか。
 泰継が選んでくれたのだ。きっと、素晴らしい酒になるだろう。
「……ありがとう。見た目も綺麗だな」
 彼を見つめ、改めて礼を述べる。泰継は、照れたように小さく頷いた。
「――では、お休み」
「待て。お返し、させてくれ」
 すぐに去ろうとする彼を、呼び止める。
 泰継は、振り返った。
 天狗は、机の隅にあった箱を持ち、彼に見せる。
「……ありがとう」
 瞬きもせずに自分を見つめていた泰継は、ほどなくして唇を綻ばせた。
「確かめて、くれるか?」
 天狗の言葉に、彼は頷いた。ゆっくりと、箱を解く泰継。
「――カタログ」
 しまわれていた冊子を見て、彼は呟いた。
 好きな食品を選べる冊子とスープ用の杯を、泰継に贈ろうと選んだ。晴明たちが招いてくれた宴も素晴らし
かったと思うが、ふたりで聖夜を過ごせるときに、渡すつもりだったのだ。彼のほうから訪ねてくれるとは、少
し驚いたが。
「好きなの、選んでくれ。杯はスープを注げる」
「……ありがとう。天狗」
「――どういたしまして」
 用途を説明した天狗に、泰継は笑顔で礼を述べた。天狗も安堵しながら、返答する。
「そして……ひとつ頼みがある」
 好む品を選んで欲しい、と思ったとき、彼の言葉が聞こえた。泰継は、綺麗な目で自分を見つめている。
「――教えてくれ」
 ゆっくりと、彼に訊く。
「ひとりで、選びたくない。隣に……いてくれないか?」
 傍にいることを願ってくれる言葉が、聞こえた。
 幸せな、願い。
「――泰継」
 ゆっくりと、彼を呼ぶ。
 そして。
 椅子を使うことをやめ、返答の代わりに抱きしめた。


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