でだ 夜。晴明は、自室で導いた。 「ゆっくり歩みなさい、泰明」 晴明の求める一礼は、すぐに映った。 「はい。お師匠が癒されお休みになれることを願います。失礼します」 傍にいる彼は静かに挨拶する。そっと、聞いた。 いつも手を抜くことなく、様々な場所で役目を果たす泰明。夜は、休めるときだ。充分に眠って欲しい。 「ああ、では」 晴明が口を開く。彼は視線を移し、見つめてくれた。晴明も逸らさない。しばらくしてから、綺麗に直立し た。 姿勢を崩すことなく歩む素晴らしさ。去るまで映したいと願う。口を閉じ、晴明は見送る。 だが。 「小さな願いです。お師匠、少し、戸の傍で呼吸をしても良いでしょうか」 ふと、質問された。少し驚きつつ、静寂は破る。 「ああ。苦しまずに過ごせるらしいな」 庵で呼吸するとき、泰明は穏やかな表情を見せてくれる。自分のいる場所が癒せているのならば、嬉しい。 小さな声が、聞こえた。 「外に近い場所で澄んだ気を得ることも可能でしょう。お師匠の傍だと一番癒されますが」 「喜ばしい情報を、貰えた」 晴明が呟く。一礼の後で、彼は呼吸を始めた。 静かな息を、堪能する。 自分の傍にいるときも、泰明は安らいでいたらしい。 胸は、満ちる。そっと、彼の傍に移った。 泰明は目を見開く。晴明は、そっと訊いた。 「同じ地に、いさせてくれるか?」 距離を詰め、少しでも彼の力になれれば嬉しい。もっと、癒したい存在。 横で、声を待つ。泰明の頬は、薄い紅を宿す。惑わせているらしい。晴明が、迷った刹那。 「は、い」 言葉を、示された。晴明は安堵し、一歩踏み込む。 「もっと、寄ろう」 充分に近い。美しい双眸を覗き込める。だが、ずっと引き止めるつもりはない。眠れる場所に彼を帰すことも 望んでいるから。 晴明は、そっと呼吸する。 静かに腕を伸ばす。距離は、いらない。美しさを、包み込んだ。 |
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