だみ


「天狗」
 踏み込んだとき。晴明の、言葉。彼は、微笑んだ。
「晴明。呼吸も静まっているな。庵に歩まないのか?」
 そっと、伝える。待ち人は、説明してくれた。
「北山を、見る。拒むか?」
 庵の、傍だ。彼は、戸を潜らない。
 北山で、夜を、晴明と掴むのだ。静寂に庇護される日。天狗が、招いた。静かなところ。庵は待つ。既に、休
めるが。
「無論だ」
 地で呼吸する彼。止めるつもりはない。澄んだ場所で休む。拒む理由はない。力を得られるのだ。晴明は、微
笑する。
「ありがとう」
 天狗は、黙しつつ承知する。ふたりの、夜。そして、寄った。

「呼吸は、止めん」
 しばらく休み、天狗が闇を破った。拒否は、しない。だが、ずっと黙さず、教える。言葉も、知らせて欲し
い。
「随分補えた……天狗」
「休む、のか」
 庵に、歩むと推理する。深い、夜。微笑みは、見える。だが。
「木に、潜める」
 晴明は、幹の傍だ。しばらく、戻らぬのか。
 天狗は少し待ち、横に移る。ふたりの、とき。拒まない。
「闇が包む場所だ。守る」
 暗いところの彼だ。美しい。惹き込まれる。そっと、腕は包んだ。晴明に、接する。
「――ありがとう」
 響く。安らぎの、言葉だ。天狗は、少し力を強める。
「暗い、場所だ。邪魔されず見つめられるな。晴明」
 潜む理由はない。だが、闇に紛れ寄ることも、改めて胸を埋められる。
 美しい背は、暗い。守りたくて、そっと包むと決める。天狗が、呼吸する。少し、寄った。
 闇を切りたい。天狗の腕が、接する。晴明を、安らがせるのだ。移らせない。
 天狗は庇護を止めず、そっと、踏み込んだ。


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