あわす


 私を見つめてくれることが、嬉しかった。
「天狗」
 褥に背を預け、彼を呼ぶ。私の頬に手を伸ばすところだ。疲れさせたくないと思い、少し身体を寄せる。
 庵に、招いてくれた天狗。今は夜だが、朝も同じ褥にいたい。明日の帰宅時刻まで、傍にいたい。
 手を、私の頬に添える彼。呟きが、聞こえた。
「――今も、隙を見せないか。晴明」
「見たいのならば、見せるぞ」
 苦笑、しているようだ。天狗が私の傍にいようとしてくれることが嬉しくて身体を寄せたが、余裕を誇示してい
るように見えて不快だったのかもしれない。
 もし無防備な姿を期待しているのならば、迷わずに添う。彼の手を読まず、身を任せよう。天狗の笑顔は魅力
的だが、幸せそうな顔のほうが嬉しい。
 だが。
「負けたようで、悔しい。隙を見せなくとも、驚かせてやる」
 彼は、首を横に振った。私も予想だにせぬ作戦でもあるのか、笑っている。嫌だと思われてはいないようだ。
 天狗の視点は、面白い。きっと素晴らしい企みのはずだ。そして無防備な姿を演じられるより、作戦勝ちのほ
うが嬉しいのだろう。天狗の傍では必ず驚きと幸せを得られるはずだ。
 では、彼の企みに期待しよう。そして、私も彼に幸せを与えるよう心がける。
「……強引な天狗も、私に幸せをくれるな」
 是非、驚かせて欲しい。そして、更に幸せをくれないだろうか。天狗だから、案ずるまでもなく可能だろう。
 笑顔のまま、私を見つめる彼。私の腰に、手が伸ばされる。
 帯が、ゆっくりと引かれた。


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