あたかも


「――泰継」
 美しい姿を見つめ、天狗は、呟いた。
「……天狗。すまない、庵に戻るべきだな」
 深い呼吸をやめ、申し訳なさそうに彼は歩き始める。だが。
「――待ち切れなかった儂の責任だ。すまない」
 天狗は、謝罪の言葉を述べた。泰継が謝る必要は、ない。
 今日の務めを果たし、彼は北山へ戻ってくれた。泰継の訪れは、庵でも分かる。しばらく待っても逢えずにい
たが、恐らく北山の澄んだ力を取り込んでいるのだろうと思った。
 静かに待てば、庵で彼と逢える。理解はしていたが、待ち切れなかった。夕刻になったばかりで急ぐようなこ
ともなかったというのに、逢わずにいられなかったのだ。お帰りと挨拶する資格はない。浅はかな自分に、天狗
は呆れて息を吐く。
「……天狗」
 瞬きもせず、黙って自分を見ていた彼。呆れているのだろうか、と思ったとき、話しかけられた。
 とても、綺麗な目だ。怒っているようには見えない。呆れているわけでもないようだ。
「……泰継?」
 不思議に思ったので呼ぶと、彼は、静かに返答してくれた。
「――浄化は済んだ。嬉しい」
 泰継は、穏やかに笑う。自分に逢えたから、なのだろうか。
 ゆっくりと、彼を見つめる。澄んだ力は足りていた。邪魔になったわけではなかったようだ。安堵の息を、吐
く。そして、唇を綻ばせる彼を愛しく思った。
「……ありがとう。そして、お帰り」
「――天狗。今、戻った」
 今度は謝罪ではなく、礼を述べる。
 泰継は薄紅の頬で、ゆっくりと答えてくれた。


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