タバサとデートに行った日から数日たったとある朝。 普通ならケティが来てくれるのだけれど、その日はルイ姉さまとタバサが突然現れたのだ。 『今日から数日は部屋を出るな』と。 タバサのデートの後…いや、その前から皆が何かとおかしかった。 そんな小さな疑問を解きたくて色々と聞いても、『大丈夫だから』とよく分からない回答しかくれない。 そんなフラストレーションの溜まる毎日に、少し嫌気が差して 「うるしゃいうるしゃいうるしゃぁぁぁいっ!!」 …違う。 待つことしか出来ない自分がとても辛くて、そんな理不尽な怒りを二人にぶつけてしまったのだ。 何も言わずに目を伏せるタバサに、俺の心が少しだけ痛くなる。 でも… 「もう少し大人になりなさい、リーゼロッテ」 「大人ってなんですかっ!私はもう大人です!」 ルイ姉さまの突き放すような言葉に、もう俺の言葉は止まらなくなっていた。 感情に制御が利かない。まるでブレーキの壊れた、止まることを知らぬ車のように。 「ルイ姉さまなんてきらい…タバサもきらい…」 「リーゼロッテ、話を聞いて」 俺の言葉に弾かれたように、タバサの顔が上がったような気がするけれど まるで決壊したように流れる俺の涙には、その姿は映らない。 いや、映った所で何も変わらない。 もう、止まらない。 「二人とも、だいっきらいっ!!」 −−−−−−−−−− ゼロの使い魔中期連載SS「オクトメイジ」 第九話「ウソとホンネとペスカトーレ −知らざる事実、知らされぬ真実−」 −−−−−−−−−− 「何も、聞かないのね」 「聞いて欲しくないことを、無理矢理聞く趣味は無いさ」 噴出す感情のままに馬に乗り、闇雲に走らせて数十分。 そういえば俺は馬に乗れなかったと気付いた時には、既に森を抜け 遠目にトリスティン城下町が見えてくる所まで来ていた。 身体をよく見ればミタマが俺の身体を支えており、馬はタオが操縦しているようだった。 よく出来た使い魔である。 ならば、城下町に向かっているのも俺の意思なのだろうか。 既に朝日が高く昇っているから、授業も始まっているだろう。 でも、今更戻ることも出来ない。だから、進むしかない。 まずは、腹ごしらえをせねば。 朝ごはんも食べていない事に、お腹の音で気付く頃には何とか城下町に着くことが出来たお陰で 無駄なこと…そう、無駄なことを考えずに喫茶店に入ることが出来た。 気分良く入れたはずなのに…タオとミタマはどうやらルイ姉さまに呼ばれたらしく、『夕方には迎えに来るから』とさっさと戻ってしまった。 主人よりルイ姉さまを取るなんて、なんて使い魔なのだろか。 絶対に戻ってやるもんか。 「いらっしゃいませぇ〜」 店に入れば可愛らしい声が店内に響いてくる。それに、他の誰かも朝ごはんを食べているのだろうか 店内には美味しそうな匂いが充満していた。 「あら、偶然ね」 「ペスカトーレだぁ…」 …匂いの元を発見。じゃなかった、ミスロングビルがテラスの席に座っていた。 今日は平日のはずなのだけれど…秘書は暇なのだろうか。 「意外…貴女、ペスカトーレを知っているのね」 彼女の食べるペスカトーレの匂いに誘われ…じゃない、ミスロングビルに誘われて向かいの席に座る。 にしても、ペスカトーレを知っているのは意外…なのだろうか。 「このパスタはね、私の国の料理なの。とは言っても、王都が海に面しているわけじゃないの。前々国王がたまたま食べて、凄く気に入っちゃって、それで『国の料理にしよう!』って…ふふっ、だからトリスティンで食べられるって知ってからはよく食べに来ているのよ」 「へぇ…そうなんですか…」 色々と謎が多いと言われているミスロングビルだが、やはりというか別の国の人だったらしい。 そういえば、学院長がどこかしらの店で働いている彼女を引き抜いたとか聞いた気がする。 「あのミ…」 彼女と同じペスカトーレを頼んで、それから思い切って聞こうとした。 でも、彼女の指が俺の唇に当てられる。 それは、聞くなという事… 「マチルダよ。マチルダ・オブ・サウルゴーダ。それが私の名前なの」 「マチルダ…お姉ちゃん?」 俺の考えていることとは全く違った。 ロングビルは偽名で、本名を俺に明かしたくて俺の言葉を止めたのだ。 でも、切羽詰っていたのだと思って欲しい。 いきなり彼女…マチルダさんを『お姉ちゃん』呼ばわりしてしまったのは。 やはり俺は、誰かに甘えたかったのだろうか。 「ゴフッ!!」 「きゃっ…大丈夫ですか!?」 咳き込む瞬間に横を向いてくれたお陰で、正面に居る俺には被害が出なかったのだが マチルダさんの口や鼻から赤い何か…恐らくはペスカトーレだと思うけれど…物凄い勢いで噴出したのだ。 「あ、ああああのあの…ご、ごめんにゃひゃい。い、いぃっいきなりおねっ、お姉ちゃんなんて…呼んでしまって…」 「い、良いのよっ! リーゼロッテがそう呼びたいなら、今日から…ううん、今からでも呼んでいいからっ」 うぅ…呂律(ろれつ)がまわらない。 切羽詰ったり、異常に興奮した時には呂律がまわらなくなるのだ。 お母様も本気で起こった時は、まるで子供のように言葉を詰まらせながら喋るから恐らくは遺伝なのだろう。 かなり驚いたはずなのだけれど、少し頬を赤くしたマチルダさんは口早に『姉』と呼ぶことを許可してくれた。 って、そういえば家では全員『様』付けなのだから、『お姉ちゃん』って呼ぶのって…マチルダさんだけ… うわ…気にしたら凄い恥ずかしい… 「ま、マチルダ…お姉ちゃん…?」 「なぁに、リーゼロッテ?」 意を決してマチルダさんを呼んでみたけれど…『お姉ちゃん』という言葉と、マチルダさんの柔らかい笑みに頬が熱くなってしまう。 「おまたせしましたぁ〜ペスカトーレでぇす。熱いのでお気をつけくださぁ〜い」 「…ごくっ」 目の前いっぱいに置かれたペスカトーレ。貝と海とトマトの匂いに、もう空腹は限界に近い。 俺はフォークとスプーンを手に取り、食べ… 「あ、ちょっと待って。いいもの掛けるあげる」 「わ、いい匂い…」 パルメザンチーズだろうか、黄色い粉をペスカトーレに振り掛けると さらに芳醇(ほうじゅん)な匂いになって、俺の空腹を刺激してくれる。 「いただきますっ」 「はい、どうぞ…ふふっ」 フォークで掬い、スプーンに当てて巻く。スプーンから零さないように口に含んで… 滅茶苦茶美味しい… お腹が空いているのもあるだろうけれど、恐らく『前の世界』で食べたペスカトーレの何倍も美味しいと思う。 「ふふっ…リーゼロッテは上品ね。やはり貴族…ということなのかしら。あぁ、悪いって意味じゃないのよ?…って…ぷっ…食べるのに必死で聞いてないわね、もう…」 「はく…んく…んく…あむ……んむ?」 何か呼ばれた気がしてマチルダさんの方を見ると、『くすくす』と笑っていた。 でも、嫌な笑い方じゃない。とても暖かくなる笑い方。 嫌なことを忘れさせてくれる笑い方だった。 「ほら、口の周りにソースがついてるわよ…拭いてあげるわ」 「ん…ありがとう、マチルダお姉ちゃん」 今度は普通に言えた。マチルダさんの満面の笑み。『うんっ』て頷いてくれたのが凄く微笑ましい。 とても…暖かい一日だ。 「リーゼロッテ、もう…疲れたでしょう?」 「ふぇ?」 ペスカトーレの味に嬉しくなって、学院では飲めないレモネードを少しづつ飲んでいる時に突然言われた言葉だった。 どういう意味なのか、というのを俺に考える暇を与えることなくマチルダさんの言葉が続いていく。 「誰も教えてくれない、知ることも出来ない。でも、当たり前のように続く毎日。なのに、周りは少しだけ違って見える。私だけが知らない。そんな毎日」 そう、そうだ。 俺は…そんな毎日が嫌で、今日飛び出してしまったのだ。 せめて教えてくれれば…なんて思っても誰も教えてくれない。 「でもね、それが貴族なの。引かれた道の上しか歩くことを許されず、曲がったことをすれば断罪される、理不尽な存在」 胸が苦しい。 違うと言いたい。 でも…マチルダさんの言うことは当たっている。 何も知らされず、何も教えられず 俺は…きっと…この学院を卒業してしまえば、誰とも分からぬ男に嫁ぐことになる。 安寧(あんねい)とした毎日は、この学院が終わると同時に終わってしまう。 そんな漠然とした恐怖があった。 「大丈夫よ、私が一緒にいてあげる。ずっと…ずっと、ね」 「マチルダ…お姉ちゃん…ひっく…」 今の俺は他の事を考える余裕なんて無い。不思議と思う事すら出来ない。 ただ…差し出される手を握り、引かれるままに彼女の胸へと飛び込む。 優しい抱擁と、甘い眠りに…身を任せるしか無かった。 「ん…ぅ…?」 「あ、起きた? まだ夜は遅いわよ。もう少し眠ってなさい」 ここは…どこだろう… 木造の…小屋だろうか。 少しだけ黴(かび)臭いけれど、優しくマチルダお姉ちゃんに抱きしめられると そんな小さなことはどうでも良くなってしまう。 「明日は国境を抜けるわ。それから数日は、お姉ちゃんと二人でちょっとした旅。でも、大丈夫。それからは…うん、私の家族と一緒に暮らしましょう。ずっと…ずぅっと…ね」 「うん…」 『きゅっ』とマチルダお姉ちゃんを抱き返し、その大きな胸に顔を埋める。 甘く、優しい匂い…とても…落ち着く匂い… そとは雨だろうか、何か轟音が聞こえるけれど まるで耳に幕を張ったようによく聞こえない。 「ほら、ちゃんと寝ること…明日からはちょぉっと野宿とかするんだから。ふふっ。リズは野宿とか初めてでしょう?ちょっと怖いって思うかもしれないけれど、大丈夫。お姉ちゃんが傍に居るから、ね?」 「うん…」 でも、マチルダお姉ちゃんの声ははっきりと聞こえる。とても優しい声。 心が落ち着いて、まどろんでいく。 「あっ…おねえ…ちゃ…」 「あっ!や、あわわ…ご、ごめんねっ」 ぴりっとした感覚。抱きしめられた時に、マチルダお姉ちゃんがお尻を触ったからだ。 もっと、もっと触って欲しいのに…マチルダお姉ちゃんは慌てるように俺のお尻から手を離してしまった。 すごく、切ない… 「おかしいわね…あの薬には媚薬は入ってないはずなんだけど…って、やだぁ…そんな顔で見ないでよぉ…うぅ…自分ですら怖くてあんまりしたこと無いのに…って、やっ…ぁ…」 「止めちゃ…やだ…ん…おねえ…ちゃ…」 頭がくらくらする。 俺は、マチルダお姉ちゃんの大きな胸に顔を埋めたまま服をずらし 優しく乳首を噛み、舐めた。 まるで少女の様な喘ぎ声。とっても可愛い。 その声が聞きたくて、身体を離そうとするマチルダお姉ちゃんの身体を引っ張り… 引っ張ったつもりだけれど、体格差が違いすぎて引っ張られて 彼女の上に覆いかぶさってしまった。 「やだ…なんで…おっぱいがこんなに…気持ちっ…ん…はっ…ん…お、お姉ちゃんの胸を揉んだり抓ったり…しちゃ…んぁっ!!…い、いま…びりって…凄いのが…」 「お姉ちゃんの胸…柔らかくて…気持ちいい…」 馬乗りになったまま俺は服を脱いで、再びお姉ちゃんに身体を重ねる。 キスがしたい。 キスが、したい。 「はぁっ…ん…」 「きゃうっ」 お互いの乳首が擦れて、互いの声から嬌声が上がる。 きっと、キスすればもっと気持ちいいから… そんな俺の思いに気付いたのか、俺の身体を離そうとするけれど前々力が入っていない。 「ちょ、ちょちょ、ちょぉっと待って!お、お姉ちゃんキスしたこと無いから、ファーストキ…んむぅっ!?」 「ん…えへ…マチルダおねえちゃんの…ふぁーすときす…んぅ…っちゅ…ちゅる…」 一度キスしたから、吹っ切れたのかもしれない。 お姉ちゃんは俺の頭を抱えるように抱きしめて、必死に舌を絡めてきていた。 「こ、ここっ…こんっ…こんっ…っどは、お、お姉ちゃん…が…する…から、ね?」 「うん…いっぱい…きもちよく…して、くださ…ん…ぁ…やんっ…」 真っ赤になりながら言うお姉ちゃんは凄く可愛い。 今度は俺に覆いかぶさったお姉ちゃんが、恐る恐る胸を触ってくる。 触るだけじゃない。まるで啄(つい)ばむようなキスを、優しく、優しく全身に… でも、一番触って欲しいところには触ってくれない…それがもどかしい… だったら、あれ…かけて…おかなきゃ… 「はっ…ぁ…ん…おね…ちゃ…」 「ん…ちゅ…リズったら…足の指でも感じちゃうのね…れぅ…ん…ふふっ…リズの身体がぴくぴくして…可愛い…」 段々大胆になってきたお姉ちゃんは、俺の脚を舐め、キスしながらゆっくりと登ってくる。 そういえば、こんな焦らす様なえっちって…初めてな気がする。 殆ど問答無用なのが多かったから、逆に新鮮で…普段より感じてしまっていた。 「こっ…これが…リズの…大事なところ…んくっ…お、落ち着きなさい私。思いっきり舐めたいのも分かるけれど、一気にじゃなく…ゆっくりと…」 「まちるだ…おねえちゃ…見てるだけなのは…切ないよぉ…いっぱ…気持ちよく…して…ぇ…んっ…〜〜〜〜〜〜っっっ!!!」 まるで思い切り殴られたような強烈な快感が、一気に脳を焼いた。 俺のおねだりが聞いたのだろう、『じゅるじゅる』と音を立てながらお姉ちゃんがあそこを吸っているのだ。 「んっ…ちゅる…じゅるるっ…これが…んぷ…っちゅ…リズの…オ○○コの味…美味しっ…ずっと舐めていたいくらいっ」 「────っ────っっ!!───────!!!」 強烈な快感に声が出ない。全身が跳ねるように痙攣している。 だけど、お姉ちゃんは必死に舐めていて、俺の事に気付いていない。 何度も、何度も絶頂して呼吸できない事に。 でも、息が苦しいのすら気持ち良い。 絶頂から降りないで、絶頂(イ)き続けるのが気持ち良かった。 でも、そんなに一杯吸われたら… 「ちゅ…?…ん…ん〜〜〜…く、クリトリスが伸びたっ!?って、違うわね…これ…リズの…おちん…ちん…なの、かしら…」 「っかは…はぁっ…はぁ…はぁ…」 やっと降りてきた。まだ小刻みに絶頂ってるけれど、大丈夫。 大丈夫とは言っても、もう何も出来ないくらいに脱力している。 脱力はしていても、魔法で作られた『アレ』は隆々と起立していた。 「こ、これは…チャンスなんじゃないかしら…23にもなって処女な私が…お、おちつけぇ…落ち着きなさい私…ど、どうせ有象無象な男どもに抱かれる心算(つもり)なんて毛頭無かったし、可愛いリズが初めての相手なら…」 お姉ちゃん…駄々漏れです…でも、それもまた可愛く感じてしまう。 『ふふ…初体験…これで…』等と良くは聞き取れない声で呟きながらお姉ちゃんは、ゆっくりと自分の秘所に当てて… 一気に入れたら痛いよ?って言ってあげたいけれど、声どころか口を動かす事すら辛い。 「ぁ…はっ…すごっ…リズの…が…肉を掻き分けてるのが…分かっ…はぁ…はぁ…だ、だめ…一気に入れちゃダメ…折角の初体験なんだから、まずは指を入れた事がある深さまっ…あっ…〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!!」 「んっ…ぁ…〜〜〜〜〜っっ!!」 意外に、初体験を楽しみたいようだったけれど 興奮しきった身体を支えるには、辛すぎたようで… 身体を持ち上げようとした瞬間、『かくっ』と膝が折れて一気に根元まで入ってしまっていた。 「きたっ…きたぁっ…リズのおちんちんに…私の子宮のファーストキス…捧げちゃったぁっ…やぁ…気持ち…ぁ…リズのが…びくびくって…これ、出て…る…出てるぅっ…さっきまで処女だった私のオ○○コが妊娠させられちゃってるぅっ!!」 「…ぁ…く…ん……ぁ…」 ごめんなさい、本当の精液じゃないから妊娠しません。 なんて、声は出ない。絶頂の嬌声すら出ないまま、お姉ちゃんの声に書き潰された。 「ん〜…えへへ…リズぅ…ん…ちゅ…」 「ん…はぁ…おねえちゃ…」 それから一回、滅茶苦茶に腰を振られて訳も分からぬままに絶頂させられた後 マチルダお姉ちゃんは、まるで猫の様に甘えながら俺にキスしていた。 瞼(まぶた)が重い… ねむい… そういえば、今深夜だっけ… 「おねえ…ちゃん?」 「ん、ちょっとオシッコしてくるね…ほら、ちゃんと寝てること。明日からはお姉ちゃんと旅するんだから、ね?」 ゆっくりと離れる寂しさに、お姉ちゃんの手を握ると 優しく握り返して『おしっこ』と言われてしまった。 流石に漏らさせるわけにはいかないわけで。 意識に闇がかかるのに身を任せてしまって… 「大丈夫…すぐ戻るから…ったく、嗅ぎつけるのが早いわね。裏は大体知ってたはずなんだけれど、流石はラ・ヴァリエールって所かしら。…あぁもう、だから貴族は嫌いなのよ。この娘は絶対に渡してやるもんか、絶対に…」 ねむ…おねえちゃ… 早く…帰ってきて… 「ん…ぁ…ふぁ…あ〜…んむ…」 朝日に目が覚める。 ベッドから身体を起こしカーテンを開けると、今日も清々しい朝の空と トリスティン魔法学院が見えた。 「…あれ?」 夢? 何か、あった気がするけれど…思い出せない。 確か…──お姉ちゃんと… ──お姉ちゃんって…誰…だっけ? 「あぁ、起きたのね、リズ」 「おはよう、リーゼロッテ」 「おはようございます、ルイ姉さま、タバサ」 何かデジャヴを感じる。 昨日…それより前? 同じ事をした気がする。 清々しい朝とは逆に、陰鬱な二人の顔。 俺の胸に不安が広がった。 「ルイ姉さま、あの…」 また、───が起きるのではないか、──と言われるのではないか… 何を考えているのか、自分ですら分からないけれど…不安が募ってしまう。 「リズ、冷静に、心を落ち着けて聞きなさい」 「は、はい」 ルイ姉さまの冷めた声に唾を飲むけれど、唾が恐ろしく冷たい。 身体が冷えて寒い。 何か、嫌なことが起きる…起きた…の…かもしれない、と。 「昨夜、キュルケが…キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーが何者かに襲われたわ」