「ね、ねむれない…」 明日は…いや、もう深夜を回っているので今日だ…虚無の日はタバサとデートなのだ。 しかしこれではまるで、遠足を待ち遠しくしている子供のようだ。と、少しだけ苦笑してしまう。 ルイ姉さま辺りが何か言ってくると思った(『義姉』と言うタバサが言わないとは思えない)のだけれど、どうやら丁度ルイ姉さま達も何か予定が重なっているようだ。 「ん、さむ…」 窓を開ければ、冷えた風が部屋に舞い込んで来る。 春とはいえまだ夜は寒さが残っているようで、体が震える。 俺はカーディガンを羽織って窓際に座り、何を考えるでもなくぼぅっと空を見上げた。 綺麗な二つの月。 心が澄んでいくように感じ… −あっ…あぁっ…さま…ん…− 「うぁ…」 …感じる暇を与えないかのように、俺の耳に嬌声が聞こえてきた。 視線を下に下げれば洗い場が見える。 そこに手を付いている…恐らくはメイドだろうらしき人物が、月の光に妖しく浮き上がっていた。 −…こ…ですっ…ひぃっ……で……あっ…や…− 遠目にも彼女の体が揺れているのが判る。恐らくは誰かとの情事中なのだろうけれども 相手の男性にまでは月の光が届いておらず、誰なのか判別することは難しい。 −…で…す………ま………ぁ…− 「わ…ぁ…あの人…絶頂(イ)ってる…」 声もはっきり聞こえるわけではないため、耳を澄ましていたら 突然の甲高い声に少し驚いてしまった。 後ろから貫かれたままに体を弓なりに反らし、全身を『がくがく』と震わせている。 やはり、膣内射精(なかだし)されているのだろうか。 そう考えた瞬間、身体の奥から『じゅわ』っと何かが溢れてくるような感覚が襲ってきた。 のどが…カワク… わタしも… 「って、ナニ考えてるのよ、私は…」 口が喉(くち)が膣(くち)が子宮(くち)が男を求めているのだと、本能的に理解してしまった瞬間 俺は顔が熱くなるのを感じながら、言い訳の様な独り言を呟きながら窓を閉め…きつく、カーテンを閉めた。 身体が冷えているはずなのに、身体の奥が熱い… 「だめ…だめ…男に抱かれる想像なんて…『俺』は元でも男。好きなのは女性。男に抱かれるなんて、絶対…」 身体が重い。必死に言い訳しても身体が言うことを聞いてくれない。 普段絶対に言わない一人称を使ってすら… 『リーゼロッテ、凄く可愛いよ』 ウェールズ王子の幻影が見えた。優しく微笑むアイツの顔が。 小さい頃しか知らないはずなのに、その姿はたくましくも美しく成長していて… その笑顔が『私』を誘惑する。 「みず…はぁ…っ…みず…はぁっ…んっ…んくっ…んっ…」 熱く痺れる、力の入らぬ身体を引きずり、テーブルにしがみ付く。 ケティが毎夜用意してくれている水差しの蓋を取り、俺はグラスに注ぐ事すらせずにそのまま胃の中に流し込んでいった。 −−−−−−−−−− ゼロの使い魔中期連載SS「オクトメイジ」 第八話「杖と魔剣と昼下がり −フライト・デートは潮の香り…じゃないからっ!?−」 −−−−−−−−−− 「リーゼロッテ、眠そう?」 「タバサだって一睡もしてないでしょ」 結局あの後全然眠れず、そのままデートに来たのだけれど どうやらタバサも、別の理由にしても眠れなかったようだ。 「ほら、行こう?」 「あっ…えぇ、そうね」 少し厚めの化粧の彼女の手を握り、少しだけ微笑む。 色々と回ろうかと思ったけれど、公園辺りでゆっくりするのがいいかもしれない。 「はく…ん…んく…んく…はむ…ん…」 「くぅ…んぅ…すぅ…」 タバサの足取りがふらふらと危なかったので、予定を繰り上げて公園のベンチに座ったは良いものの タバサは俺を抱きしめ、そのまま寝入ってしまっていた。 余程疲れているのだろうか、俺が抱きしめられたままの体勢でベンチに座っても 少しだけ涎を垂らしながら、幸せそうに眠っている。 何か、俺が知らない所で起きている気がする。 けれど、それを知る術はない。 ルイ姉さまもタバサも、ケティも…きっと聞いたところで話してはくれないだろう。 俺は一緒に食べようと、眠れない時間を利用してサンドイッチを作って来ていたので それに齧り付きながら、タバサの頭を優しくなでた。 平和な一日。 昔からある何でもない一日。 『前の世界』では当然の毎日。 この世界では、少し違うのかもしれない。 「ん〜…すん…すん…はくっ…んっ…ん…んく…すぅ…」 「ぷっ…タバサってば、寝ながら食べてる」 半ば冗談で彼女の鼻元にサンドイッチを近づけると、暫く匂いを嗅いだ後に『ぱくっ』と噛り付いてきた。 目を瞑(つぶ)り、頭を俺の肩に乗せ、全身寄り掛からせながらも 幸せそうな顔で寝ながら咀嚼する様は、なんとも愛らしい。 「いつも、ありがとね…私のタバサ」 「ん…んぅ…すぅ…すぅ…」 優しく頭を撫でながら、小さな感謝の言葉を風に乗せる。 タバサたちが何をしているのかは知らない。 知る必要が無いわけではないとは思うけれど、今の俺に出来ることは ただ優しく、彼女たちを受け入れてあげるだけなのかもしれない。 「そんなこと、して貰う訳にはいかない」 「いいの、いいの…ほら、いこ?」 日が少し傾き始めた昼下がり、俺も一緒に少しだけ眠ってしまっていたようだ。 何とか眠気の取れたタバサの手を取った俺は、買い物に出かける事にしたのだ。 タバサの手に持つ両手持ちの杖を買ってあげようと思ったわけである。 この辺りは元男だからなのかもしれない。 何も目的も無くぶらつくのではなく、目的があるからそちらへ行く、というのは。 メイジ用、特にタバサの杖は風と水に特化させた特注品だ。 安い品物ではない事など百も承知である。 「いらっしゃ…って、こりゃあ貴族さま…うちはまっとうな商売をしてまさぁっ、お上に目をつけられるような事は…」 「店主、杖を見せてちょうだい」 大通りから少し離れた寂れた武器屋。大抵こういう場所には掘り出し物があるというものだ。 だが言われた店主も、後ろのタバサも何故か絶句している。 「リーゼロッテ、ここ…武器屋…だけど…」 「杖だって武器でしょう。店主、置いてないの?」 「あぁっ!あります、あります!へぇっ!で、でも…貴族さまが使うようなモノは…」 ほら、置いてある。確かに表通りに魔法道具屋があって、そこにブランド物の杖があるのは知っているけれど タバサにはそんな量産モノより、一品物がいいと俺は判断して来たのだ。 でも、変なのだろうか? タバサは普段の無表情を決め込んでいるつもりの様だけれど、少し口元が引く付いているし 店主なんて、さっきから布切れでしきりに汗を拭っている。 ま、普通は素人に掘り出し物を見つける事なんて出来ないだろう。 だが、俺にはとっておきがあるのだ。 「ミタマ、出てきて」 「はいはい、『探せ』って言うんでしょ」 ミタマは水の精霊。風とも親和性が高いから、杖にかかった力を調べるには特に良いのだ。 タバサも一度以上見ているはずなのに、口を『ぽかん』と開けている。 店主なんて…うわ、腰抜かせておしっこ漏らしてる…見なかったことにしよう。 「ねぇ、面白そうなモノがあったんだけど」 「うわ、もう見つけたの?…って…それ、剣?錆びてるんだけど…」 ミタマを呼び出して1分すらかかってないと思う。 驚きを隠さぬままに、ミタマの方を向くと 何やら錆びてボロボロに刃毀(はこぼ)れした見た目の悪い剣を、器用に尻尾で握っていた。 「悪かったな錆びててよぅっ! 俺様だって錆びたくて錆びたわけじゃねぇんだぞっ!」 「わ、喋った!」 「こ、こらデルフ! 貴族さまになんて事を言うんだ!」 どこかに発声器でも付いているのだろうか…て、機械じゃないんだからそんなの無いか。 ってことは、魂の込められた剣? それって、滅茶苦茶レアなんじゃ… でも、剣なんて…それも錆びているのをタバサに渡すわけには…なんて考えていたのだけれど 「インテリジェンスソード…珍しい…」 滅茶苦茶興味を持っていました。 「ハッ! 手前(てめぇ)みたいなちっこい餓鬼が俺様を使いこなせるわけねーだろうがっ! 手前なんざ、そこにある棒っきれで十分なんだよ!」 「あぁぁっ!!すいません、すいませんっ! こらデルフ!いい加減黙らねぇと溶かすぞ!」 どこから声が、と思ったらどうやら店主は腰の抜けたままに商品台に手を置いて無理やり立ち上がって デルフ…というのだろうか、この錆び剣を怒鳴っていた。 でも、棒っきれ? 武器屋に、棒? …杖? 「ね、デルフ…それ、どれ?」 「あぁ? な、なんだよ…そこ…あぁそっちじゃねぇっ! その右だ右!」 デルフが言った場所は、『安売り』と名指され乱雑に入れられた武器箱だった。 でも、気になる。きっとこういう所に物凄いものが… 『ちょ、ちょっと豚! アンタ何勝手にスタスタ歩いているのよっ!』 「…ルイ姉さまの、声?」 と、俺がルイ姉さまの声に気付いてドアの方を振り向いたのと ルイ姉さまらしき人がドアを開けようとしたのが同時だった。 の、だが。 「今、満員」 「えっ?ちょっ!?」 ルイ姉さまらしき人の姿がギリギリ見えない位でタバサにドアを締められてしまったのだ。 しかも、何か外で爆発音が聞こえるんだけれど… 「この店は狭いから、外で待ってもらった」 「そ…そう、なんだ…あはは…」 何だろう、知りたいけれど触れてはいけない気がする。 俺は気持ちを逸らすために、武器箱に手を突っ込んでみれば 何かの布らしきもの…それに包まれた硬いものに手が触れていた。 「んしょ…わ…すご…太くて…おっきい…」 「嬢ちゃん、狙ってやってないか?」 錆び剣にツッコまれたが、そんなわけがない。 というか、凄い大きいのだ。俺の身長を軽く超えるほどに。 なのに、物凄く軽い。俺でも片手で振り回せていた。 「げ、これ封印布じゃない。こんなの掛けられてたら判んないわよ」 「そりゃそうだ、チビ餓鬼に分かるわけねぇだろ」 「さっきからチビチビって私の事!? 燃やして溶かすわよっ!」 ミタマの言うとおり封印用なのだろうか、布にはびっしりとルーンが刻まれていた。 しかし…ミタマって水の精霊のはずなのにどうやって燃やすのだろうか。 「あ、そりゃ行商人が持って来たんですが…どうやっても封印が解けないんでさぁ。そんなので良ければ金貨100枚で構やせんぜ」 「おぉ…」 わ、タバサの目がキラキラしてる。もしかして、こういうレア一品モノが好きなのだろうか。 持った感じでは、変な所は無いから多分大丈夫だろう。 「待ったなし、金貨100枚置くよ。じゃ、ミタマ」 「ケッ!高々数百歳の餓鬼狐がソイツの封印解けるわけがねぇよ」 「なんですって!? 見てなさいよ…」 このデルフとかいう錆び剣…もしかすると、物凄い剣なのかもしれない。 この封印されている杖を簡単に言い当てたし、ミタマの能力も看破しているみたいだ。 そういえば、ミタマって水猫ではなく、水狐らしい。小さいから差が分かり辛いのが欠点といえば欠点だろうか。 ミタマの七本ある尻尾から細い水の糸が出てくる。 まるで蜘蛛の糸の如く儚く、薄く、細い糸。 簡単に切れそうな程なのに、しっかりと巻きついて棒…杖? あぁ、全貌が分からないから棒で良いかな…が持ち上がる。 「せぇ…のっ!」 「えぇぇぇぇっ!?」 封印ってそんなので良いの?思いっきり切り裂いちゃったんですがっ!? でも、ズタズタに引き裂かれたということは…封印解けた…の、かな? 「きれい…」 封印布とかいうのに巻かれていた棒は、薄く青緑に光る杖だったようだ。 タバサはうっとりしているけれど、俺としてはもっと装飾のある綺麗な杖を想像していただけに 無骨な、まるで物語に出てくる魔法使いのおばあさんが持っているような杖に 少しだけ、ほんの少しだけがっかりしていたのは仕方ないと思って欲しい。 でも、そんな俺とは真逆の感想を持っているタバサにとっては… 「かなり強い風と水の力が封じられている。これ、私のもの?違う?違ったら奪い取るだけ」 「凄いテンションだよね。うん、タバサにプレゼントだよ」 余程気に入ったのか、タバサはミタマから受け取ってからは胸に抱いたままに杖に頬擦りしていた。 それが救いといえば救いなのかもしれない。 でも、いくら気に入ったからって… 「突然人気の無いところに引っ張り込まないでぇっ」 「しぃ…リーゼロッテが静かにしていれば見つからない。ほら、もう少し股を開いて…しゃぶってあげる…」 遠めに大通りが見えているのに、そこに歩いてる人が見えているのに ちょっと横向いたら、こんな所でえっちしているのがバレちゃうのに… なのに、タバサは興奮しきった様子で俺のショーツを脱がしにかかっていた。 「ひゃっ…ぁ…吸っちゃ…だめっ…ぇ…」 「ん…ちゅる…っちゅ…ん…ちゅっちゅっ…? 出てこない?」 もしかして、『アレ』が気に入っていたのだろうか。 『出ない』と言いながら頻りにクリトリスを吸ってくる。 でも『アレ』は魔法なのであって、俺の身体に最初からあるものではない。 だから、魔法をかけないと出るわけが無いのだが 「もっと強く吸った方が良いのかも知れない…ん…じゅるっ…はぁ…はぷ…ん…ん〜〜…っちゅ…」 「はぐっ…あぁっ…だめっ…だめぇっ…つよっ…しげき…強すぎるよぉっ!!」 言ってなかった?言った様な気がするけれど… にしても、こんな吸われたら魔法どころではない。 スカートの中に突っ込んでいるタバサの頭を両手で抱くようにして、抜けそうになる膝に必死に力を入れる。 でも膝に力を入れれば、自然と気持ちがあそこに向かってしまうから 我慢しようにも出来そうに無い。それに…凄く良い匂いがするし… …いいにおい? 「ひぐっ!?」 「へへっ…俺たちも混ぜてくれよ。女同士より楽しいぜ?」 下半身素っ裸の数人の男達が、惜し気もなくあれを見せてきていたのだ。 驚きと恐怖と期待で頭が混乱して、でもそれが余計に興奮させてくる。 って、期待!? 違うっ期待なんかしていないっ! 「たっ…たばっ…たばっ!?」 「…?……?……エア・ハンマー」 未だに頭を突っ込んでいるタバサの頭を叩き、タバサの名を呼ぼうとするのだが 舌が回ってくれず言葉にならない。 でも、タバサは気付いてくれたようで口元を俺の愛液で濡らしたままに、スカートの中から顔を出して周囲を見回し『エア・ハンマー』を詠唱無しで放っていた。 「───!───!?──────」 轟音で声が聞こえない。そもそも、エア・ハンマーって金槌のように円状に叩き潰す魔法のはずだったのだけれど 今放たれたタバサのエア・ハンマーは、俺たちを中心に、それで俺たちを避けるように周囲のみに炸裂していたのだ。 その所為で周囲の壁…いや、建物が崩れる音がしている。 俺の背中にある壁も、俺が寄り掛かっている部分を残して…うわ、裂壊してる… 「これは予想外」 「冷静に言ってる場合じゃないよ!? 早く逃げな…きゃぁっ!!」 そういえば、膝に力が入らないのを忘れていた。 走り出そうと、足を踏み出した瞬間に膝が折れ、地面にキスする所だった。 でも、タバサが抱えてくれたお陰でその難を逃れることが出来ていた。 そのままフライの魔法を使ったのだろう、『ふわり』とした浮遊感を感じた瞬間 俺たちの身体は一気に上空へと昇っていた。 「フライのも魔力消費が格段に少ない。これは良い」 「よく分からないけれど、そんなに凄いんだ…って、や…ぁ…もぉ…空の上でなんて…んんっ…」 周囲に居た男達がどうなったのかは分からない。 うまく逃げたかもしれないし、そうじゃないかもしれない。 ただ、今言える事は 「この杖のお陰で、空中でもえっち出来そう」 「そんな事に使っちゃだめぇぇっ!!」 右へ左へとふらふら飛びながら、執拗に身体を弄(まさぐ)って来るタバサの指をどう避ければいいか、ということだけだった。 「大丈夫、耳にもキスしてあげるから…ん…ぁ…はぷ…」 「やぁっ…みみだめっ…だめなのぉっ…ひゃうんっ!!」 お願い、街を歩いている人 今日だけは…上を見ないで下さい… −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− オリジナル設定 水と風の杖(正式名称不明) リーゼロッテがタバサにプレゼントした一切飾り気の無い無骨な杖。 全くの無名の杖なのだが、遥か昔魔法全盛期に作られた杖で単体でもかなりの魔力を秘めているため製作者が軽く封印布を巻いたようだ。 長い年月で封印の解き方を忘れ去られ、それから長い間封印されたままだったようだ。 流石に全く魔力の無い者には扱えないが、メイジであれば風と水の魔法が使えなくても 一時的にドットランクに限るが使えるようになるほどらしい。