庭の見える部屋の一室。100を超える部屋のある屋敷の中でも特にお気に入りの場所。 私…六道幽子はまったりとしたティータイムを楽しんでいた。 …いや、楽しんでいるつもりなだけよね。と心の中で苦笑する。 「今回の除霊の報告書でございます、大奥様」 「あら〜、フミさんありがとう〜」 私はまったりとした口調で謝辞を述べながら報告書を受け取る。 私の娘である冥子の報告書である。 ページをめくる。名前、除霊内容等が細かく書かれているが、私の視線が向かうのは『除霊バートナー』の場所。 高島忠美 この名がまた、今回も載っていた。『も』と着くのは、今回で20回を超えたからである。 しかも、週に4回行われてる除霊の内3回は彼女の名前が載っているのだ。 ゴーストスイーパー(通称:GS)協会役員である私ですら聞いた事の無い名前。 最初は大した事の無い、気に掛ける必要すらないモグリのGSだと思っていたが、どうも普通のモグリとは違うようだ… GS美神異伝「漆黒の姫君」 外伝2「偶然? 必然? 伝承の姫」 「こちらが、高島忠美氏のプロファイリングデータです」 私は報告書から目を離し、プロファイリングデータに目を通し始める 通常霊圧…14マイト 戦闘霊圧…53マイト 瞬間最大霊圧…257マイト 瞬間最大霊圧が戦闘霊圧の約5倍? 疑問が浮かぶ 瞬間なら私でも500マイトを超えることは出来る。娘も一瞬だけなら350マイトを出した事がある。だがそれは『六道家』の特異な体質によるものである。 一般人の中でも特に能力の高かった故『美神美智恵』は確か瞬間最大霊力は277マイトだったはずだ。 もしこれが事実ならば、凄まじい逸材である。 だが、疑問はこれだけでは終わってくれない。 技能…不明 不明。20回も調査を行っていてなお不明の文字。 別にフミさんの能力を疑っているわけではないが、あまりにも不自然である。 しかも、それ以降も不明不明不明と続く。 はっきりと判ったのは、名前と性別と住所と『キヌ』と呼ばれる女性と同居している事位なのだ。 「昨日お嬢様と例の女性とで行われました除霊の映像がありますが、如何されますか」 「お願いね〜」 やはりフミさんにとっても不明というのは腹に据えかねているのかもしれない。 この前エージェントの入れ替えが行われたのも、恐らく『高島忠美』のプロファイリングに関係していたと考えても良いのではないか、と思う。 「始めます」 小さくもはっきりしたフミさんの声に応じるかのように、うららかな庭の風景を映していた窓に黒いカーテンがかけられ、一瞬にして部屋全体が闇に包まれた。 『ヴンッ』という電子的な音と共に、私から1メートル程離れた場所に映像が現れる。 『あ、た〜ちゃんこっちぃ〜』 嬉しいのだろう、ぱっと華やぐ笑みを浮かべて手を振る娘の姿が映る。 『た〜ちゃん』とは恐らく『高島忠美』の事であろうというのは容易に想像が付くが、あだ名で呼ぶのを聞くのは『鬼道家』の嫡男以来始めての気がする。 『おぅ、早いな冥ちゃん』 まるで男のような口調の女性。 まるで墨汁でも塗ったかのような漆黒の髪、そしてそれに負けないほどに黒いローブに身を包んでいる。 黒魔術系かとも思うが、見た所道具らしきものは持っている形跡が無い。 黒魔術系統は大小の差異はあれど、道具無しで術を行使する程の高ランク魔術師が無名などありえないのだ。 『えへへ』とまるで猫の様に『高島忠美』の胸に顔を摺り寄せながら娘が抱きついている。 『高島忠美』の方も嫌がる風は無く、優しい笑みで頭を撫でている。 つまり、この抱き合う光景は今回が初めてではなく、恐らく『毎回』行われているという事だろう。 場面が切り替わる。 除霊の場所に入ったのだろう。 「映像形式、切り替えます」 フミさんの声と共に『ピッ』と電子音が鳴り、画面に悪霊や浮遊霊に妖獣等が映る。 光による物理映像から、霊力による精神映像に切り替わったのだ。 一瞬にして周りの建物が消えるが、その数秒後に再び建物が映る。 物理映像も混ぜたのだろう。 「あら?」 疑問が浮かぶ。 「フミさん、物理映像消してみてくれないかしら〜?」 再び建物が消える。 だが 「服が消えないわね〜」 そう、娘の服は霊的防御を兼ねているとは言え、物理的な物であるため殆どが透けているのに対し 『高島忠美』の服は消えるどころか全く透けていないのだ。 「恐らく、純度100%の霊的素材を使われているのかと」 たしかに純度100%の服を着れば透けることは無い。 だが、それは人が作れる代物ではないのだ。 現在では人里離れた某所に住まう鶴が機織るだけのはず。 つまり、凄まじく高価なのだ。 一般人が、それも一介のモグリがおいそれと買える物ではない。 この六道家であっても一揃えする事など出来ない。 それを… 「物理映像を混ぜて映像を続けますが、よろしいでしょうか?」 「え、あぁごめんなさいね〜 続けて〜」 いけない、思考の海に飲まれる所であった。 『今回はクビラ、インダラだけな』 『は〜い』 娘が『高島忠美』の指示を疑問に思うこと無く肯定している。 我が娘は凄まじく臆病だ。 毎回毎回十二神将と呼ばれる六道家専用式神を全て呼び出してなお、中心でガタガタと震える娘なのだ。 それが、臆することなくクビラを肩に乗せ、インダラに跨っている。 周りに悪霊等凄まじい数の敵が居るというのに。 『3・2・1・GO!』 『高島忠美』の掛け声と共に、一気にインダラが走り出す。 最高速度は出ていない。精々100Km/h程度である。 それを娘は身体をふら付かせる事無く、縦横無尽に走るインダラを操っている。 ここまで我が娘は成長したのか。そんな思いも生まれるが、今はそんな事を考えている場合ではない。 再び場面が変わる 思わず目を見開いてしまう。 画面一杯に魑魅魍魎達が映っていたのだ。 どうやら娘がインダラに乗って誘導している様だった。 バサラも出していない状態で、これほど集まったモノをどう処理するのか。 「今から、『不明』が出ます」 『不明』それは、『高島忠美』の技。 手が光る。腕が上がり、まるでダンスを踊るかのようにくるりと一回転し 「えぇ!?」 画面が光に包まれたのだ。 その瞬間に映像が止まる。 「霊圧判定値上げて」 間延びした声ではなく、思わず地の声が出てしまう。だが、今居るのはフミさんだけなので敢えて気にはしない。 すると、一瞬で光が消えた。 フミさんが調整を失敗したのかと思ってしまう。 「ちょっとフミさん、上げすぎよ〜?」 「いえ、それが・・・」 光り、消える、光り、消える。何を遊んでいるのかと思ったが、測定値を見てぎょっとする。 これは125マイトと126マイトの間で起こっているのだ。 つまり、光り全体が125マイトの霊圧を持っているという事に他ならない。 ありえるのか、霊力全てが弱くも強くもならず一定などという所業が。 「・・・続けます」 フミさんも動揺を隠せないようだ。確かに『これ』は不明だ。 だが、さらに予想を覆される 『光』が『線』になったのだ。それこそ億は超えるであろう数の線に。 それが、悪霊に浮遊霊に魑魅魍魎達に触れる瞬間 「あ・・・」 ため息とも付かぬ声が漏れてしまう。 まさに、『浄化』である。 清浄なる光りに触れた不浄なる物が浄化される様。 そして、その中で謳い、踊る『高島忠美』。 「漆黒…の…姫君…」 口から自然と漏れる『名』 そう、これは… 「はい、六道家にあります書物に記載されている伝承の『漆黒の姫君』に酷似しています」 伝承…それも神々が地上で暮らしていた頃に書かれていたであろう本に書かれていた一節 闇より暗き衣を身に纏いし姫君 彼(か)は魔神の妻なり 彼の漆黒の髪は見るものを魅了し 彼の歌は生とし生ける者全てを祝福し 彼の掌(たなごころ)より生まれし金色の光は不浄な存在を許さず また、彼の踊りは全ての存在を赦すであろう ・・・ありえない 「フミさん、歌と踊りの分析を」 「はい、済ませております」 流石に仕事が早い。いや、彼女としてもそんな御伽噺に出てくるような者がこんな所に存在しているはずが無いと思っている所為か… 「歌の様に聞こえるあれは、圧縮言語と酷似しています。」 「圧縮言語…」 人語とはかけ離れた言語と音階によって1秒で万秒の表現を行うと呼ばれる言語。 黒魔術にも似たものがあるが… 「踊りの方は不明な点が多いですが、不規則に見えて特定の周期を繰り返しています。122131221231212211313121121231122のステップで一周期のようです。また…」 画面が切り替わる 『高島忠美』を真上から映している様だ。 円を描くようにくるくると踊っているが…これは… 「方陣…?」 「はい。文献を検索しましたら、どうやら中世ヨーロッパに存在していたとされる方陣に酷似しているという事が判明しています。また…」 映像が止まり、初老の男の写真が映る。 この男は知っている。 「ドクターカオスよね」 「はい。ヨーロッパの魔王と呼ばれた彼の編み出した魔方陣に酷似しており、また彼は圧縮言語の第一人者でもあります」 映像が戻り、除霊風景が映る。 もう除霊風景は意識に入っていない。 ある程度はわかったが、推論の域を超えない。 恐らく『高島忠美』はドクターカオスと通じており、彼の元で修行したのだろうという推測。 面白い。 くすりと私の顔から笑みが零れる。 勿論、面白いのは『彼女』がドクターカオスと接点を持っているという可能性の話しでは無い。 突然映像が切れた事に対してである。 そう、切れる瞬間に… 「フミさ〜ん、続き映してくれないかしらぁ〜?」 「あ、えっと…こ、ここで終わりですが」 「嘘はいけないと思うの〜」 明らかな動揺。面白い。 フミさんの反応がではない、この『後』に起こるであろう事に対して。 しぶしぶといった感で映像の続きが映る それは… 『んっ…はぁむ…ちゅ…ちゅる…』 娘と『高島忠美』の濃厚なキスシーン。それも舌同士を絡ませる奴である。 「ふ…ふふ…うふふふふふふふ…」 面白い。本当に面白い。 うっとりとしながら口付けを交わす娘。 せめてこの『高島忠美』が男であればという思いもあるが、こんな映像を見たらもう関係ない。 「フミさ〜ん、私〜『彼女』に会ってみたいわ〜」 「ご随意に」 どんな手を使ってでも『こちら』側に引き入れる。 そう、どんな手を使ってでも。 まぁ娘の為にも出来れば穏便に済めれば越した事は無いとも思うが。 週末辺りが良いだろうか…『彼女』に会うのが本当に楽しみになってきた。 はしがき 外伝2をお送りしますゆめりあんでございます。 時間軸的には黒姫4話の直前の話ですね。 幽子さんです。ゆめりあん的にはこの人はこう頭の中で物凄い考える人なんじゃないかなぁって思ってます。 今回は流石にエロは差し込めませんでした… 最後にちょこっとだけキスシーンがあった位で。 …なんて言いつつ、実はそのままエッチシーンに入って二人に度肝を抜く…なんて事も構想にはあったりなかったり。 4話では濃厚なエロシーンが入る予定です。 エロを楽しみにしている方はご期待を…? そういえば、伊達雪乃丞をTS(女性)化させるかどうかで悩んでいます。 する場合→高島の餌食 しない場合→原作通りに弓とくっつく 『こっちが良い』と思った方は、直ぐにメールをっ では、また次回に。