…ここは人里離れた深い森林。木々の間からは山が近くに見える。 しかし、山奥とは言えども人の手は入っており、数キロ先には車道が、その道を辿り山へ向かえば温泉がある。 そんな場所に 「なんじゃこりゃぁぁぁ!?」 己を映す池に顔を覗かせながら、どこかの俳優ばりの声を上げる一人の少女が居た。 まるで男の様に地声で叫ぶ姿はあまりに似つかわしく、しかしながら少女の可愛さは全く損なわれず。 叫んでる間に少女をよく見てみよう。 物凄い形相で叫ぶその顔には幼さが残り、髪は草木の緑に映えるほど黒く、長い。また髪に負けず劣らず黒いローブに包まれた華奢な身体は成熟しきってない感が見える。 …単に胸が小さいだけかもしれないが。 「なんでじゃー! 何でこんな姿にー! やり直しを要求するーっっ!!」 少女は誰に向かって叫んでいるのか、天か神か… 一頻り叫び終わると、力尽きたように地面に両手を付く。 叫びからして後悔から来るものだろうか。顔を顰め、目からは滝の様に涙が流れていた。 しかしそれも数秒の事。ばっと顔を上げると誰に向けるでもなく『ニカッ』と笑う。 やはり男らしい笑い方と言うのだろうか。少女…いや、女として浮かべる表情には見えないが、それが何故か様になっていた。 「まぁ、クヨクヨしたってしょうがないよな。何が原因かはしらねーけど…あぁ紋珠は出来るだけ使いたくはねぇんだけど…」 目的のためにしゃーないか。と一人ごちて、右掌を見つめる。 ゆっくりと掌に貯まりだす霊気。渦を巻き、小さな玉に収束…しそうになって霧散する。 「あ、ありゃ? 調子わりーのかな」 あっけに取られた表情を浮かべ、今度は『でろぉぉぉぉ!』と気合を入れる。 再び霊気は掌の上で収束し、玉の形になり… 『ピシリッ』「うげっ!?」 玉に亀裂が入った瞬間、爆音と共に吹き飛んだ。 ギャグ漫画の様な叫びを上げつつ吹き飛ばされる少女。 偶然なのか、それとも彼女の実力なのか身体には傷どころか煤一つ付いてない。 だが、顔には落胆の色がありありと浮かんでいた… 「な、何で作れないんだよ…」 怯え、恐怖、混乱。様々な感情の入り混じった声で小さく呟き いつしか、嗚咽に変わっていた… 身体を横に倒し、小さく丸めて泣く。 すすり声に混じり、単語が少女の口から漏れる。 『折角』『10年』『男、女』『ハーレム』 彼女を知っている人であるならばこれらの単語で彼女の意図する所が掴めるのだろうが、残念ながら『この世界』には彼女を知る人物は一人も居ないのである。 彼女は嘗て『向こうの世界』で、魔王を打ち倒した英雄であり、嘗て引く手数多の一流ゴーストスイーパーであり、嘗て『スケベ大魔王』『セクハラ魔神』『浮気の体現者』等の異名を取り、嘗て36歳(未婚)であり 嘗て『性別:男』だった。 その名は『横島 忠雄』 GS美神異伝 「漆黒の姫君」 第一話 「妄想、夢想、初体験は…犬!?」 「って、ンなわけあるかぁぁぁ!」 小さく丸まって居たはずの少女…横島は再び天に向かって雄たけびを上げていた。 題名は見えていないはずだから、何か頭に浮かんだ事に対しての叫びなのだろう。 横島に流れる血のなせる業か…泣き腫らし、嗚咽を続けて喉を枯らし掛けていた時に出た容赦の無いツッコミに、あっさりと横島の喉は悲鳴を上げた。 「うっく…けほ…がっ…んくっ…んくっ」 痛みに耐え、四つ這いになりながら先ほどの池に顔を突っ込み、そのまま池の水を飲み下す。 余程の痛みだったのだろうか、横島は息が続く限り水を飲み、寸前で顔を上げて荒い息を立てた。 髪を伝い落ちる雫は池に波紋を作り、その波紋に紛れて見える自分の顔。 突っ込みや叫びを入れていた時の顔ではない。 まぶたは腫れ、恐怖と絶望に彩られる酷い顔だった。 再び横島の心に暗雲が立ち込める。水を飲んだときの様に顔を突っ込んで、そのままじっとしていればこんな現実は早く終わるのではないか。 実はこれは夢で、死んだら『元の世界』に戻れるのではないか。 そんな思いも過ぎり始める。 おもむろに服を脱ぎ始める。 衣擦れの音すら立てずに脱げるローブは、草に触れる音すら立てずに地面に落ちる。 そこで横島は思い出した そういえば、服は『これ』だけだったんだ、と。 女の裸を実際に見るのは何年ぶりだろうか。横島はごちる。 見ているだけか、触りたくないか、女の快楽は男と比べ物にならんらしいぞ。 頭の中の自分が横島に囁く。 むくむくと劣情が鎌首をもたげる。 横島が、脱ぎ捨てたローブの上に寝転がるのは、その数瞬後だった。 「あ…はぁ…ん…くっ…ふぅ…」 粗く呼吸をしながら胸を揉み、揉む手を見続ける。 現実的ではなかった。 横島には、自分の知らない女が自分の目の前で自慰を始めたように見えた。 自分は、ただ感覚を共有してるだけなのだと。 気分を出すために妄想を始める。 自慰をする時は何時もだった。 AVビデオを見るときも、エロ本を見るときでも、どんな女を見ても現実的に思えず、汚す事を心で謝りながら己の知る女性たちに置き換えて妄想する。 だが女性経験…あ、いや女であった経験の無い横島には胸を揉む所から先には進めず、暫くそのまま続けていた。 「ん…はぁ…何か物足りな…あっ…んぁ!?」 何かが擦れた瞬間、甘い快楽が鋭い物に変わる。 何かは判らない。判らなくても良かった。 そこを本能で摩れば良いだけだから。 「んっ…はぁっ…んくっ…美神さっ…」 左手で揉み、右手で乳首を軽く抓みながら、妄想を続ける。 『なに、忠美? こんなに乳首を硬くしちゃって…』 居ないはずの美神と呼ばれた女性の声が横島の頭に響く。 横島が知る何時ものボディコン服ではなく、横島と同じく裸で見たことも無い妖艶な笑みを浮かべて横島の乳首を舐め吸い始めた。 美神…それは嘗ての上司。嘗ての恋人。しかし、横島が最後に最も嫌われた人。 だが、忠美とは誰なんだろうか。 そんな事が横島の頭を過ぎるが、美神は誰でもなく横島を見つめながら囁いている。 『んっ…ちゅ…胸は小さいのに感度は良いわね。凄く可愛い顔をしてるわよ?』 美神は横島の胸を揉み乳首を舐めなから、もう片方の乳首をきゅうと抓る。 「んぁっ…それっ…だめですっよ…」 『何がダメなのよ、ほら…気持ち良くってしょうがないんでしょう?』 胸を執拗に攻め立てられ、あられの無い…『前の世界』では出した事の無い嬌声を上げる。 『もぉ…美神さん、皆で気持ちよくするって言ったじゃないですかぁっ』 横島の頭に『おキヌちゃん』という名前が浮かぶ。 横島を慕い、横島に恋をし、しかしあまりにも奔放すぎる横島に付いていけず『義理の姉』の住む神社の近くに住む名も知らぬ男性と結婚した人。 だが妄想の中のキヌは横島に美神と同じような妖艶な笑みを浮かべ、すぅっと横島の膝をなで上げた。 「ひっ」と小さな悲鳴が上がる。「敏感なんですね」とくすくす笑うキヌ。 そうなんだろうかと横島は疑問に思うが、キヌは横島の思考を途切れさせる 『ほら、忠美さん。足を曲げて膝を立てて…そうそう、そうすれば忠美さんのえっちな部分が…あぁ…こんなにトロトロになっちゃって…』 キヌの熱い吐息が横島の…嘗ては『マグナム』と自称していた物があったが、今は侵入者すら知らぬ、ぴたりとくっ付いた花弁がある…部分に掛かる。 キヌの言う通り、横島のそこからは粘着質の液体が泉の様に湧き出していた。 見てるだけでは我慢できなくなったキヌは『はむっ』という擬音を口にしながらむしゃぶりつく。 「んっあぁぁ!? こ、これすごっ…だ、だめっだ…からぁんぁ!?」 ちゅるちゅると吸われているいやらしい音が横島の耳に響く。 ちょっと止めてと口に出したいのに、口から出るのはあれらもない嬌声のみ。 すする淫音と嬌声、執拗に攻め続けられる乳首と花弁。 これはただの妄想なんだよな、そうだよな。 自分に言い聞かせるのに、ちょっと止まれよ俺と自分に言いたいのに、美神とキヌの攻めは止まらなかった。 確かに現実に二人は居なかった。 時々甘噛みする美神は横島の左手であり、美味しそうに吸い立てるキヌは横島の右手だ。 だが、両手は完全に横島の意識から離れ、まるでべつの生き物の様に横島に快楽を与え続けている。 「んっ…はぅっ…おキヌっちゃ…美か…っさぁあんっ!」 二人に攻め立てられる妄想に翻弄されながら、両手は確実に横島の感じる部分を攻めていく。 右手は人差し指と薬指で花弁を押し開きながら、中指で膣口から陰核までを擦り、時折きゅうっと陰核を押しつぶす。 左手は右胸に左胸にと忙しなく移動しながら、揉み、乳首を抓り捻っていく。 『なぁに、またイっちゃうの? エッチね、忠美は…』 『大丈夫ですよ忠美さん。気持ち良くなり過ぎて壊れちゃっても私達がちゃぁんと毎日…ううん、24時間ずぅっと気持ちよくしてあげますから…』 妄想なのに、空恐ろしい言葉が横島の頭に響く。 確かに、妄想の中の二人が言う通り横島は何度も絶頂を迎えていた。 最初は美神に乳首を噛まれた時、次はキヌに花弁を舐め上げられた時だったか… 最初は軽かった。だが、段々と絶頂の間隔が短くなり、絶頂を迎えるたびに感度が…気持ちよさが募っていく。 気付けばイきっぱなしになっていた。 それでも二人は、横島の指は止めない、止まらない。 「ふ、二人とも…もうゆるひ…んひゃぁっ」 『だぁめよ。私のベッドにおもらししちゃう悪いコにはオシオキしないとダメでしょう?』 くすくすと笑う美神さん。 いつの間にベッドになったのだろうか。 『忠美さぁんっ忠美さぁんんっ』 キヌは何時の間にか横島の右足を抱え、互いの花弁を擦り合わせていた。 「それっすごくっ…良いっよ…」 にちゃにちゃといやらしい音と共に来る快楽に横島は身をゆだねていると、がしっと頬を掴まれる。 誰か? いや、美神さんだろう。他に居ないし。 そう思うが、いや待てとすぐに思い直す。 確かに妄想の中では横島にのしかかり、頬に両手を当てているのは美神さんだが… 冷静になった頭に届く異臭。横島の頭は一気に現実に引き戻された。 圧し掛かっているのは 「グルル…ウマソウ…オマエ…オレサマ…犯ス…ソシテ、マルカジル」 赤い毛、赤い瞳…人倍ほどの体躯のある犬…いやもとい、妖獣だった。 横島の全身が総毛立つ。 声が出ない。悦楽の余韻など一気に吹き飛んでいた。 だが、イきすぎて全身に全く力が入らない。 「グルルゥ…フゥッ…フゥッ!」 腐臭のする息が横島の顔に掛かる。 どうする、どうする!? 混乱しつつも回避方法を浮かべようとするが… 「ひぃ!?」 見なければ良かった、後に横島はそうごちた。 見なければ『この後の生活』はもう少し楽しかったかもしれないと。 周囲を確認するために見回したのがいけなかった。 今の横島の腕ほどもある獣のペニス。 だらだらと臭い体液を垂らしながら、長すぎるそれは横島の花弁から胸辺りまでを擦っていた。 「あ…あ…んむぐぅっ!?」 恐怖に半開きになった口に容赦なく突っ込まれる。 その反動で少し浮いていた頭は地面に叩きつけられ、一気に喉奥まで侵入を許してしまう。 「んぐっ…ぐぅっ…んんっ!!」 「ガァッ…ハフッ! ハフッ!」 相手を考えない容赦の全く無い律動が始まる。 横島の唾液と獣の体液が混ざり合って、ぐじゅっぐじゅるっと横島の口から溢れながら音を立てた。 苦しいなんて物じゃない。呼吸すら出来ない。気持ち悪いなんて考えられなかった。 気持ち悪くないのではない。 喉を限界まで広げながら口を、喉を犯し続ける妖獣のペニス。 それが下から貫かれるものなら… 恐怖と苦しさで混乱しながらも、力の入りつつある両手で何とか抜こうと試みる。 だが、妖獣のペニスはぬめっており、にちゃにちゃと音を立てながら擦るだけに留まってしまう。 早く抜かねば…そう思う。犬のペニスを口に突っ込まれて窒息死しましたなんて皆が知ったらと。 『この世界』に横島を知る者は居ない。別に横島が勘違いしているわけではない。 横島の周りには何時も誰かが居た。 逆を言えば、誰かが居たからこそ頑張れた。 今回『この世界』に来たのだって、端的に言えばそう繋がる。 「グゥ! モット、モット擦レ! グルルゥオオオオオン!!」 「んっ…ぐぶっ…んんっっっ!!!!?」 だが、横島の努力も空しく妖獣は大きく叫ぶと喉奥へと己の欲望を吐き出し始めた。 全身を震わせるとペニスを大きく震わせながら、凄まじい量の精液を出していく。 律動とは違う、まさに暴力と言っても過言ではない射精が続く… 喉奥に突っ込まれているため、問答無用に胃に注がれていく。 だが、胃を満杯にするだけでは止まらず、ペニスによってぎちぎちになった食道を精液が逆流して、ペニスと口の隙間から噴出した。 「フゥッ!フゥッ!」 「ぐ…ぐがぶ…」 余韻を楽しむかの様に妖獣は軽く律動させて引き抜くと、びちゃびちゃと横島の口からおびただしい量の精液が噴出してきた。 口だけでは足りず、鼻から…さらには出きれない部分は肺に溜まっていく。 横島は横になってなんとか体内の精液を吐き出し、新鮮な空気を取り込もうとするがむせて中々肺に入ってはくれなかった。 「ナンダ、ソンナニオレサマノぺにすガ良カッタノカ? 漏ラシテ、垂レテルゾ」 グッグッと笑いながら侮蔑の声を上げる妖獣になど構ってる暇は無かった。 空気を吸う…吐く。咳も止まり、何とか呼吸が出来る。 力は…入る。 「アンシンシロ、スグニ入レテヤル!」 にちゃっという音と共に今まで口を蹂躙していたペニスが当てられる。 あれだけ出したのに大きさは変わらない、いや下手すると大きくなってる気もする。 いや、ただ経験が無いからそう感じるだけなのか… もう、大丈夫だ。 横島は心の中で自分に言い聞かせる。 何が大丈夫なのか、相変わらず立つほどの力は出ない上に、己を蹂躙した怒張に対する恐怖は拭えていないと言うのに。 べちゃり あっけない音だった。 横島には見えない。だが何が起きたのかは理解している。 起こしたのは自分なのだから。 「ルグァァァァァアアァァァア!!!!!!!」 絶叫だ。空気を、木々を振るわせる叫びを上げ、どさりと横島の上に倒れこむ。 だが、直ぐに動き出そうとする妖獣を横島は優しく抱きとめる。 さながら、愛しい彼氏を抱くように、優しい口調で妖獣の耳元で囁いた。 「気持ちよかったか、犬ッコロ。あンだけ出したんだ、相当良かったんだろ? だったらもうちょっと楽しめよ…な?」 男のような口調…いや、『元』男なのだから構わないのかもしれないが… だが、妖獣は苦悶の叫びを上げ続ける。 何が起きているのか判らない、判りたくも無い。 自分は狩猟者だ。狩る事はあっても、狩られる事等ありえない。 ましてや、自慰に耽って居た小娘に等傷を負うことすら有り得ない。 妖獣はそう考えるが、蝕む激痛が現実だと容赦なく突きつけてくる。 どれだけの時間そうしていただろうか。 もうかなり前に妖獣の苦痛の叫びは止まっていた気がする。 んしょっと小さく声を上げながら妖獣の下から這い出し、ローブを引っこ抜く。 妖獣も名残惜しかったのだろうか…横島が這い出て数秒も経たないうちにザァッという砂の流れる音と共に輪郭が薄れ、空気に溶けてしまった。 ゆっくり息を吸う。 吐く。 吸う。 吐く。 吸う、そして… 「あーーーーああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」 力の限り叫んだ。 叫んで叫んで叫びまくった。 唯の叫びではない。 慟哭である。 まるで生まれたての赤子のように涙を流し、力の限り泣き叫んだ。 怖い 怖い こわいこわいこわいこわいこわいこわい ガタガタッと全身が痙攣するように震える。 脳裏に浮かぶのは暴力的な怒張。 まだ『前の自分の物』なら良かった。 臭いが、味が、全てが口に、体中に生々しく残っている。 助けて そう思うが、助けなど来るはずも無い。 『ここのみんな』は俺の事を知らないのだから。 だから、自分で乗り越えるしかなかった。 叫ぶ 泣く 叫ぶ 大丈夫だ。今だけだ。もうちょっと泣いたら終わりだ。 そう、自分に言い聞かせながら横島は泣き続けた。 次回 「名前どうすっかなぁ…」 妖獣を無事倒した横島は、車道を歩きながら一人名前を考えていた。 そこに現れる持病?持ちの少女。 彼女は一体・・・? GS美神異伝 「漆黒の姫君」 第二話 「俺の名前は…」 「なぁっはっはっはぁ! ハーレムじゃあ! あ、でも男は勘弁な?」